KORPIKLAANI

バイオリン奏者、アコーディオン奏者を含むヘビーメタルバンド。フィンランド出身。中心人物はボーカル兼ギターのヨンネ・ヤルヴェラ。フィンランドの民族性を前面に出したヘビーメタルを演奏する。初期は英語が中心だったが、2007年以降はアルバムタイトルも曲もフィンランド語中心となった。

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SPIRIT OF THE FOREST

2004年。ボーカル兼ギター、バイオリン兼フルート、パーカッションを含む6人編成。フィンランド出身。1990年以降の世界的な多文化主義傾向をヘビーメタルで体現するバンドのひとつ。バイオリン奏者はフィンランドの民族楽器であるヨウヒッコも演奏する。ヨウヒッコはカンテレやニッケルハルパほど有名ではないが、バイオリンよりもかすれた音を出す弦楽器で、有名グループではヴァルティナがヨウヒッコ奏者を抱えている。「フルンフンパ」で独奏が聞ける。民族楽器を取り入れたハードロック、ヘビーメタルバンドはフィンランドにたくさんあるのだろうが、このバンドのポイントは歌詞が英語で、世界的な活動に支障が少ないことだ。曲の多くでバイオリンとフルートがメーン・メロディーを演奏する。どんなメロディーかにかかわらず、バイオリン、フルート、パーカッションで演奏されると民族音楽らしく聞こえるが、そうした楽器がない演奏を想像すると、とても世界的に取り上げられるレベルのサウンドではない。特にボーカルは力量不足。地元の民族音楽をロックに取り入れるという点では世界的に成功しているセパルトゥラやフロッギング・モリー、ジプシー・キングスと同じだ。英米との相違点そのものを価値としている。14曲のうち5曲はインスト。

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VOICE OF WILDERNESS

2005年。邦題「荒野のコルピクラーニ」。ギターが加入し7人編成。アコーディオン奏者とカンテレ奏者はゲスト参加。ギターが増えたことでサウンドに厚みが出た。バイオリンが2声だったり、バイオリンとフルートが同時に演奏されたりして、ライブでは再現できないサウンドが含まれる。前作よりもハードになった。ギターとドラムの向上によるところが大きい。全曲に邦題がついている。インストの「ビール飲み放題」と「哀しみのコルピクラーニ」は歌詞がフィンランドの現地語と思われる。

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TALES ALONG THIS ROAD

2006年。邦題「世にもコルピな物語」。ギター、パーカッションが抜け、アコーディオン奏者が加入、6人編成。ギターはデビュー当時のメンバーが抜け、「荒野のコルピクラーニ」で加入したメンバーが残っているので、ギターのハードさは前作並み。アコーディオンとマンドリンの量が多くなり、相対的にバイオリンが少なくなっている。全体的に曲がスピーディーで、アコーディオンが使われるとフィントロールに近くなる。10曲のうちインストが1曲、4曲が現地語で歌われており、英語の歌詞が減ってきた。バンドの演奏能力は格段に向上し、これまでで最もハードなサウンド。

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TERVASKANTO

2007年。邦題「コルピと古の黒き賢者」。過半数の曲が現地語になり、欧米での活動を視野に入れていないと思われる。前作同様、アコーディオン、バグパイプ、バイオリンがメロディー楽器で、ギター、ベース、ドラムがリズム楽器となっている。ハードさやスピーディーさはさらに進んだ。日本では比較的陽気なサウンドに注目して祭りに関連づけているが、使われている楽器からして大衆舞踊のための音楽、あるいはダンス音楽と解釈した方が適切だ。フィントロールと同様、ポルカに近い雰囲気のサウンドが多いのは、高速の2拍子であるポルカとヘビーメタルが比較的近いビートを持つからである。

5
KORVEN KUNINGAS

2008年。邦題「森界の王」。前作までの祝祭的雰囲気は少なくなり、高揚感だけを残すハードなサウンドになった。このバンドのサウンドの核は、アコーディオン兼バイオリン奏者のヒッタヴァイネンであることは明らかだが、ヒッタヴァイネンがいなくても、他のヘビーメタルのバンドより質の高い曲、演奏をしている。過去のアルバムは、日本のレコード会社が低年齢層を狙った邦題を付けたため、日本語が作り出すイメージに沿った曲が注目された。したがって、祝宴の曲がこのバンドの個性ととらえられがちである。しかし、デビュー盤から「世にもコルピな物語」まで、英語で書かれたタイトルにそのようなイメージはないし、ジャケットは現在でも求道的で、祝宴がメーンではない。そろそろ、質の高い民謡ヘビーメタルとして(日本のレコード会社は)イメージ修正するべきではないか。

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KARKELO

2009年。邦題「コルピの酒盛り」。オープニング曲から3曲は勢いがある。歌詞は酒とそれ以外に大別され、酒に関する曲はおおむね明るい。神話にかかわる曲はミドルテンポが多い。12曲のうち英語のタイトルは1曲で、全曲に邦題が付いている。各曲に英語による解説が付いている。これまでのアルバムに比べ、堅苦しさが薄れているので聴きやすい。

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UKON WACKA

2011年。邦題「コルピの神様」。バイオリンとアコーディオンを使うヘビーメタルとして評価が安定してきた。これまでとサウンド上変わるところはなく、一種のお家芸を確立している。新しい要素を取り入れる余地は十分にあるが、今のところそのような兆候は見あたらない。

8
MANALA

2012年。邦題「コルピと黄泉の世界」。インスト曲以外はすべてフィンランド語。バイオリン奏者が交代。サウンドは変わらないが、故事を題材にしているため陽気な雰囲気は少ない。創世神話であり英雄譚であるカレワラを題材とするならば、陽気な場面が想定できる部分をあらかじめ狙わないとそのような曲は作れないだろう。ジャケットはシベリウスの交響詩で有名な「トゥオネラの白鳥」と思われる。「トゥオネラ」が「黄泉の世界」。

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NOITA

2015年。邦題「コルピと魔術師達の宝玉」。アコーディオン奏者が交代。ジャケットは初めて複数の人が描かれている。「アンマン古墳」の場面を描いたとみられる。ギターのハードさが増し、ボーカルも力強くなった。リズムを構成する楽器としてのギターがハードになったので、全体がハードになったように聞こえる。アコーディオンやバイオリンはメロディーを作りソロもとるが、ギターのリズムと対等もしくはギターに従属する音量になっている。酒宴の雰囲気よりもヘビーメタルバンドとしてのハードさを前面に出している。「呑み隣人」はトミー・ジェイムス&ションデルズの「モニー・モニー」のカバー。

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KULKIJA

2018年。邦題「北欧コルピひとり旅」。旅をテーマとしている。これまでの空想的な歌詞と異なり、現実の旅に近い。陽光を感じさせるジャケットもこれまでと異なる。前作でのヘビーメタル化を引き継ぐサウンド。バイオリンとアコーディオンがメンバーに入っている以上、ヘビーメタルの主流にはなかなかなれないが、ロックの方面へ進もうとするならば、慣例をある程度捨てなければならない。「巨人が分かつ橋」はギター主体のミドルテンのヘビーメタルで、アコーディオン、バイオリンはずっと後ろに下がっている。「豊穣神に捧ぐバラード」はインスト曲。

11
JYLHA

2021年。邦題「コルピの暗黒事件簿」。ドラムが交代。CDのブックレットには曲ごとにフィンランド語と英語の解説が付いており、歌詞の内容が分かる。実際にあった事件を扱う曲が複数あるため暗黒事件簿というアルバムタイトルになったとみられる。それ以外の曲はこれまでのアルバムに収録されていた宴会や伝承、メッセージソングだ。「ブラッドバウンド」は、本当は怖い、というタイプの昔話。途中でジューダス・プリースト風になる。「イソキュロの泉」でレゲエのリズムを取り入れたことでイギリスでの注目は上がるかもしれない。