NIGHTWISH

  • フィンランドのヘビーメタル、ハードロックバンド。キーボード奏者を含む5~6人編成。ボーカルは女性。
  • オペラ風に歌うボーカルのターヤと、それを補完するややクラシック風のサウンドが注目された。
  • 2000年代前半の女性ボーカルのブームで歌い方が変化している。ターヤは脱退してソロ活動に入っている。

1
ANGELS FALL FIRST

1997年。キーボードを含む5人編成。女性ボーカルがオペラ風のソプラノ・ボーカルだからといって、それだけで評価が上がるわけはない。ソウル風のボーカルとかデス声のようなスタイル上の問題は、個性を形作ることには違いないが、オペラティックなボーカルを擁するにはそれなりの必然性が欲しいところだ。それは、このボーカリストがバンドに存在する間、ずっと言われ続けることだ。詩は北欧、フィンランド人のアイデンティティを強く出している。

2
OCEANBORN

1998年。「パッション・アンド・ジ・オペラ」の途中で女性ボーカルのターヤがスキャットをする部分が出てくるが、これはモーツァルトの歌劇「魔笛」の有名なアリア「復讐の心は地獄のように胸に燃え(通称、夜の女王の歌)」をモチーフにしている。このアリアはクラシックの世界では歌うのが難しいことで知られているため、このアリアをモチーフにすることがボーカルの能力を示すことになる。他のソプラノボーカルを擁するロックバンドと一線を画する重要な曲。ジャケットは、アルバムの中の曲「デヴィル&ザ・ディープ・ダーク・オーシャン」の一節をイメージしている。アルバム・タイトルもこの曲の歌詞から採っている。日本デビュー盤。

3
WISHMASTER

2000年。装飾過多なキーボードの曲ばかりから脱しようとする意気込みはある。次の課題が多くうかがえるアルバム。

 
OVER THE HILL AND FAR AWAY

2001年。ゲイリー・ムーアの「オーヴァー・ザ・ヒルズ・アンド・ファー・アウェイ」のカバーと新曲とライブの企画盤。さすがにボーカルは安定している。

4
CENTURY CHILD

2002年。楽曲に幅が出てきて、それに合わせて歌い方も変えている。ベースが交代してダブル・ボーカルになった。ロック全体のファンにアピールできるようになるのも近い。

5
ONCE

2004年。前作と同じ路線で、「センチュリー・チャイルド」以降から聞き始めた人は普通の女性ボーカルに聞こえるのではないか。やや大仰なキーボードが入る現代的なロックで、「ウィッシュ・アイ・ハド・アン・エンジェル」はこれからのバンドの核になるであろうサウンドと思われる。伝統的なハードロックであるエデンブリッジよりも、もっと広く受け入れられているエヴァネッセンスと比較されるのは理解できる。女性ボーカルを擁する売れないゴシック・ロックバンドや明確な革新性のないハードロックとは別次元のバンドで、そうした意味ではエヴァネッセンスしか比較対照がないのは理解できる。

6
DARK PASSION PLAY

2007年。女性ボーカルが交代。オペラ風の歌い方をするボーカルは、ボーカル部分をすべてオペラ風に歌う傾向があり、サビでない部分でもクラシック音楽を強く思い起こさせるが、新しいボーカルのアネット・オルソンはオペラ風ではない一般的な歌い方だ。「アマランス」「エヴァ」などの歌い方は前任のターヤにはなかっただろう。ただ、ターヤはそうした歌い方をしなかっただけで、歌おうと思えばできただろう。その逆が難しいことは否めない。バックの演奏はオーケストラ風であったりストリングスが大仰であったりしてクラシック音楽の要素を大きく残している。オープニング曲は5部に分かれ、14分近くある。各部は明確に曲調が変わるのでよく分かる。「サハラ」はオーケストラが活躍、「フーエヴァー・ブリングス・ザ・ナイト」は合唱隊が活躍する。「ザ・アイランダー」はアイルランドのバイオリンとイーリアン・パイプが使われる。

7
IMAGINAERUM

2012年。オーケストラ風の大仰なサウンドは従来のままだが、女性ボーカルの歌唱力は上がり、表現力が豊かになった。「スケアテイル」はこれまでになかった魔女風の歌い方。「ソング・オブ・マイセルフ」は4部構成で13分。どの曲もラプソディー・オブ・ファイアのようにオーケストラ、合唱隊で盛り上げる。この系統のバンドの双璧と言っていいだろう。最後のタイトル曲は6分のインストで、アルバム収録曲の回想風となっている。

8
ENDLESS FORMS MOST BEAUTIFUL

2015年。ボーカルが交代し、木管奏者が加入、6人編成。「利己的な遺伝子」で有名なリチャード・ドーキンスがアルバムの最初と最後にナレーションを入れている。このナレーションがリチャード・ドーキンスでなければならない必然性はアルバムの最後の内容で分かる。リチャード・ドーキンスは、生物それぞれの個体が遺伝子の入れ物であり、つまるところ生物は遺伝子の乗り物であるという理論を一般社会に広めた生物学者。「ザ・グレイテスト・ショー・オン・アース」で、今我々が地球に存在していることの奇跡を歓迎しようと述べている。このアルバムにはアメリカの詩人ホイットマンに影響を受けたという「エラン」、ソローの「森の生活」を思わせる「マイ・ウォルデン」が含まれているが、この2人の思想はリチャード・ドーキンスやチャールズ・ダーウィンの学問的功績よりも、偶然や奇跡の積み重ねによって現在の我々があるという思想と共通している。ホイットマンやソローはアルバムの途中にある伏線で、最後の「ザ・グレイテスト・ショー・オン・アース」がその伏線を回収するとも言える。キーボードのトゥオマス・ホロパイネンが全曲の作詞をしているので、トゥオマス・ホロパイネンの考え方がこの曲に凝縮されている。ボーカルはアフター・フォーエヴァーの女性ボーカルに変わっているので、特に技巧的な面はない。一時的に集められたとみられるオーケストラ、合唱団、児童合唱団が参加し、さらにシンセサイザーによる強い音響を使う。イーリアン・パイプ、ホイッスル奏者が加入しているものの、出番は多くない。「ザ・グレイテスト・ショー・オン・アース」でバッハの「トッカータとフーガ」ニ短調の一節を使用か。日本盤の解説は、通常ホイットマンと表記される詩人がウィットマンと書かれたり、「草の葉」が「草の根」になっていたり、リチャード・ドーキンスの紹介として必須の「利己的な遺伝子」が書かれていなかったりと、単純ミスとは言えない不備が目立つ。

 
MY WINTER STORM/TARJA

2008年。ナイトウィッシュのボーカルだった女性、ターヤのソロアルバム。ミドルテンポで楽器の音があまり目立たない。歌手のアルバムとして一般的な曲調だ。ヘビーメタルでもハードロックでもないが、バンドサウンドになっている。オペラ風の歌い方をしており、「シアランズ・ウェル」が最も高度な歌唱力を必要とする。他の女性ボーカルでは不可能な技巧をわざわざ組み込んでいる。日本盤ボーナストラックでは「シアランズ・ウェル」のライブ・バージョンが収録されており、ターヤ本人とその周辺の人はターヤの存在意義を明確に理解している。「ポイズン」はアリス・クーパーのカバー。「アイ・ウォーク・アローン」はポップな曲ではないが覚えやすくいい曲だ。ナイトウィッシュのバンドサウンドの雰囲気は皆無。