RADIOHEAD

  • 90年代の代表的なオルタナティブ・ロック・バンド。イギリス出身。
  • ボーカル兼ギターのトム・ヨークを中心とする。バンドのカリスマ性が高い。「クリープ」が代表曲。
  • 「OKコンピューター」では陰鬱なサウンドで90年代の不安な気分を具現化した。
  • 「キッドA」ではエレクトロニクスを使い、角のない包み込むようなサウンドに変化、その後はロックの側に戻りつつある。

1
PABLO HONEY

1993年。ギター2人の5人編成。ギターの重い響きに比べ、ボーカルはあまり力を込めて歌わない。言葉にし得ない感情をギターの音に託し、言葉にしうる感情、すなわち語彙の量で組み立て、自らが納得できる感情を歌詞に投影する。語りに近いニュアンスのボーカルだ。「クリープ」は自らをクリープ(ウジ虫)と否定的にとらえることで、若年層の社会的威信の低さ、社会的承認の満たされなさを歌っている。それはベックの「ルーザー」やニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」と同じ視点であり、自己と社会を相対化できる者が感じる苦しみだ。サッチャー時代のイギリスとレーガン時代のアメリカでマッチョイズムがさんざん強調された結果、自らを「クリープ」や「ルーザー」のように感じる若者が多く醸成された。80年代であれば、自己否定の感情は開き直りの明るさや自己放棄の無軌道性で表現されたかもしれないが、90年代の中産階級の若者は喧伝されるマッチョイズムと、自らの境との折り合いに苦労している。「ブロウ・アウト」のエンディングには抑圧の解放が感じられる。「ユー」「エニイワン・キャン・プレイ・ギター」収録。

 
CREEP

1992年。シングル盤。英米のオルタナティブ・ロックを代表する曲の1つで、ベックの「ルーザー」、ニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」と並ぶロック史上の重要な曲。トム・ヨークが抑鬱的に歌っている途中でエレキギターが鋭く刻み込むことによって、ふさぎ込まれた「ため」が爆発的に解放される。ロックの象徴的楽器であるエレキギターが、弱者である若者の悲観や諦観を救済するという、ロックの理想像を示したような曲だ。日本発売は1993年。「イエス・アイ・アム」はアルバム未収録曲。

 
ITCH

1994年。日本仕様の独自盤。「ストップ・ウィスパリング」はU2に似たボーカルの曲のアメリカ・バージョン。シングルのB面3曲、ライブ3曲、「クリープ」のアコースティック・バージョン収録。

2
THE BENDS

1995年。前作の雰囲気を残しながら、ボーカルに力強さが出てきた。曲によってきちんと歌い方を変える。U2がエレクトロニクスを導入した方向に進まなければ、こういうサウンドになったであろうという音。様々な効果音や実験的音響が差し挟まれ、バンドが好奇心を持って制作していることが分かる。アルバムタイトル曲は「クリープ」に続き、一人前の人間になりたいという感情が現れている。「ストリート・スピリット」は名曲。「マイ・アイアン・ラング」「ハイ・アンド・ドライ」「ナイス・ドリーム」「フェイク・プラスティック・トゥリーズ」「ジャスト」「プラネット・テレックス」収録。

3
OK COMPUTER

1997年。憂鬱さを前面に出し、ストリングスやキーボード、サウンド効果を使ってひたすら暗く、緊張感漂う雰囲気にしている。多くがミドルテンポで、音の数はそれほど多くない。誰かに似ているというルーツ探しをしても適当なアーティストは見つからず、独自性を発揮している。オアシスとブラーによるブリット・ポップとは異なるサウンドを打ち出し、90年以降の不安の時代の象徴するアルバムとなった。オアシス、ブラーに変わり、レディオヘッドとケミカル・ブラザーズがイギリスのロックの牽引役となる。ケミカル・ブラザーズはレディオヘッドとは逆に享楽的気分の象徴だった。「サブタレニアン・ホームシック・エイリアン」はボブ・ディランの「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」を意識したタイトル。「フィッター、ハッピアー」と「ノー・サプライゼズ」は、目指すべき理想としての「平凡」と唾棄すべき現状が、イギリスの若者には一体と感じられることを示している。最初のシングルとなった「パラノイド・アンドロイド」は6分半もあり、曲の展開もおよそシングル的ではないが全英3位。「カーマ・ポリス」「ノー・サプライゼズ」「エアーバッグ」「ラッキー」「レット・ダウン」収録。

 
PARANOID ANDROID

1997年。シングル盤。「ポリエチレン(パート1&2)」「パーリー」はアルバム未収録曲。

NO SURPRISES/RUNNING FROM DEMONS

1997年。ミニアルバム。6曲収録。日本向けのミニアルバムであることをジャケットに明記している。「パーリー」はリミックスバージョン。「メラトニン」「ミーティング・イン・ジ・アイル」「ビショップス・ロープス」「ア・リマインダー」はシングル盤収録曲だが日本では未発表だった曲。

4
KID A

2000年。サウンドが大きく変わり、ほとんどがキーボードとコンピューター処理された音で成り立っている。「ハウ・トゥ・ディサピア・コンプリートリー」と「オプティミスティック」以外にギターはほとんど出てこない。キーボードは音の立ち上がりと減衰がなだらかで、環境音楽にも近い。これがデビュー盤ならば、ロックだとは解釈されなかっただろう。キーボードやエレクトロニクスによって人間が発想しうるサウンドはほとんど実現可能になっているが、その大きすぎる可能性が逆に、目的の喪失を招くことを示唆するサウンド。時代の反映という意味では前作に続き傑作だ。「イディオテック」「エヴリシング・イン・イッツ・ライト・プレイス」「ザ・ナショナル・アンセム」収録。

5
AMNESIAC

2001年。「キッドA」のときに録音した曲を1年足らずの間隔でスタジオ盤として出した志の低いアルバム。前作よりもギター、ボーカルが目立っており、これが前作に対する修正のような印象を受ける。キーボードやコンピューター処理された音が多いのは前作と変わらないが、このアルバムならばロックの範疇に入るのではないか。それでも「OKコンピューター」よりは大きく前衛的だ。「アイ・マイト・ビー・ロング」「ナイヴズ・アウト」はバンドサウンド。「ピラミッド・ソング」「ユー・アンド・フーズ・アーミー?」収録。

 
PYRAMID SONG

2001年。シングル盤。アルバム未収録曲が4曲もある。

KNIVES OUT

2001年。シングル盤。アルバム未収録曲を4曲収録。「ライフ・イン・ア・グラスハウス」はアルバムより約30秒長いバージョン。「ピラミッド・ソング」の4曲と合わせると、アルバムがもう1枚できそうだ。

6
HAIL TO THE THIEF

2003年。「キッドA」の雰囲気がある曲をわずかに残しつつ、全体としてはバンドサウンドに戻っている。「キッドA」「アムジーニアック」で電子音、サンプリング、編集等の実験性を通過したことで、「ザ・ベンズ」よりも編曲の幅が広がったのではないか。オープニング曲の「2+2=5」とエンディング曲の「ア・ウルフ・アット・ザ・ドアー」は合唱もできる。「キッドA」収録曲に近い曲は「バックドリフツ」「ザ・グローミング」。暗さは変わりない。「ゼア・ゼア」「ゴー・トゥ・スリープ」収録。

7
IN RAINBOWS

2007年。頼るべき存在や依拠すべき手本、ロールモデルがない(消滅した)時代を反映した、現時点での代表的サウンド。15年前はそれがニルヴァーナの「ネヴァーマインド」、10年前はレディオヘッドの「OKコンピューター」だった。90年代以降の社会、あるいは世界の雰囲気を「あてどなさ」と解釈する人がいるが、かなり妥当な解釈だと言えるのではないか。その雰囲気をロックの形式で表現した例として、レディオヘッドの「OKコンピューター」以降のサウンドを提示されれば、納得させられてしまう。ロックに「あるべき姿」というものがありそうだと考える人には、評価が分かれるアルバム。

 
THE BEST OF

2008年。ベスト盤。1曲ごとに詳しい解説がついているが、さらにコンパクトな解説をつけた曲リストもついている。

8
THE KING OF LIMBS

2011年。エレクトロニクス、リズム・マシーンを多用する「キッドA」路線の曲。「リトル・バイ・リトル」「フェラル」「ロータス・フラワー」はバンドサウンドにエレクトロニクスを加えたようなサウンド。「コーデックス」はピアノ中心。最後の「セパレーター」はやや明るい。トム・ヨークのボーカルはこれまでどおり繊細だ。アルバムの前半はリズムが細かく刻まれる。8曲で37分半。

9
A MOON SHAPED POOL

2016年。現代音楽的奏法の弦楽器奏者が参加し、「バーン・ザ・ウィッチ」「ザ・ナンバーズ」では弦楽器がメロディーを主導する。多くの曲でアコースティックギター、ピアノ、弦楽器が使われ、前作とは方向が異なる。「フル・ストップ」は「ゼア・ゼア」を思い出す。有名曲が多いバンドだけに、どの曲も過去のどれかの曲に雰囲気が似るということが避けられなくなっている。アコースティック楽器とエレクトロニクスのバランス、クラシック音楽の楽器とロックの楽器、明滅的で矩形的な音と輪郭不明瞭な音など、種々の対比がもたらす聴覚的効果をうまく活用している。それらが総体として予測不可能性を広げ、緊張感を高め、独創性の大きさとして歓迎される。