「春一番」は、1971年、大阪市天王寺区の天王寺公園で始まった音楽イベントです。福岡風太氏が中心となって企画し、フォーク、ニュー・ミュージックの新しいアーティストが多数出演しました。
高田渡、加川良、中川五郎、有山じゅんじ、センチメンタル・シティ・ロマンス、大塚まさじ(ザ・ディランII)らが常連として出演し、はっぴいえんど、はちみつぱい、三上寛、なぎらけんいち、金子マリ&バックス・バニーなどが目玉として登場していました。エレック・レコード、ベルウッド・レコード、URCからレコードを出したアーティストが多く、商業的な成功からは一線を画した音楽が中心だったと言ってよいでしょう。
当時、これらのアーティストは、多かれ少なかれ志を持った若者が支持しており、先進性や対抗文化という点で共通していました。エレック、ベルウッド、URCに最も勢いがあった時期と、このイベントの最盛期は一致しています。
「春一番」は1979年でいったん終わり、1995年から再開。金延幸子、木村充揮ら70年代から活動するアーティストに加え、大西ユカリと新世界、押尾コータロー、遠藤ミチロウ(スターリン)、リクオなど80、90年代のアーティストも出演するようになりました。ジャンルも幅を広げ、山下洋輔や坂田明などのジャズ、レゲエ、ブルース、河内音頭まで聞くことができます。
「春一番」はトリをとるアーティストがその日のメーン・アーティストというわけではありません。観客向けには、当日に出演するアーティストのリストが告知されますが、出演順や出演時間は示されず、有名、無名のアーティストが、順不同で登場します。多数のアーティストが出演するので、各アーティストの出演時間は短く、15分、2〜3曲で終わる人もいます。長くても1時間に及ぶことはありません。
このイベントのおもしろさは、70年代に活躍したフォーク、ロック・アーティストの今の姿が見られる、レコードやCDでは聞けないアレンジが聞ける、有名アーティスト同士のその日限りの共演が聞ける、普段自発的に聞くことがないジャンルの音楽に触れることができる、などでしょう。音楽の形態に寛容な人、表現のありように興味がある人、音楽を好き嫌いではなく好奇心で聞く人には刺激の多いイベントです。
関西を中心に活動するアーティストは、半ば常連と化している人も多く、有山じゅんじ、木村充揮、大塚まさじ、島田和夫(憂歌団)、石田長生(ソー・バッド・レビュー)らは毎年のように出演しています。活動の拠点が東京や地方にある人は数年ごとに出演します。なかなか出てこないアーティスト、たとえば2004年に初登場した南正人、2005年、31年ぶりに出たなぎら健壱、26年ぶりに出たセンチメンタル・シティ・ロマンスなどは、その年の目玉になります。
出演アーティストの傾向から、観客の中心は70年代フォーク、ニュー・ミュージックの全盛期に青春時代を過ごした人、団塊の世代からやや下の世代です。「春一番」に毎年来る人も多いので、観客席では同窓会のような雰囲気もあります。その人たちの子ども、つまり団塊ジュニア世代から大学生にかけての客が大西ユカリと新世界や押尾コータローに喜びながら、それ以外のさまざまなアーティストに触れ、音楽の経験の幅を広げていきます。
2005年に20回目を迎え、2006年から名称が「祝・春一番」となりました。福岡風太氏とともにイベントを運営する阿部登氏によると、「2人が両方とも生きている間は春一番を続けられる」そうです。このイベントを1人で運営していくのは厳しいということのようですが、長く続いてほしいと思っています。

日陰で暗くなっていますが、後方でもステージはよく見えます。いす席の後ろは芝生席になっており、レジャーシートを敷いて見ることができます。左奥が入り口で、当日出演するアーティストのCDや書籍などを販売しています。飲食物は販売していません。

ギターの三宅伸治が客席まで出てきていますが、普段はこんなことはありません。

人気アーティストの場合、ステージ前に人が集まり、ライブハウスのように盛り上がります。

いす席全景。白いテントは音響機材を操作するところ、奥にあるござの屋根はビールを売っているところ。服部緑地公園の外に出ればビールや飲食物を買うこともできますが、徒歩で往復15分から20分かかり、その間にアーティストのライブがまるごと終わってしまいます。安く飲みたければ入場する前に買って置くことです。

夜8時ごろ、最後のアーティストのライブ。大塚まさじ、伊藤銀次、有山じゅんじ、リクオ、島田和夫、石田長生らが共演。金子マリも見えます。有名アーティストが多人数で共演するのは、このイベントでこその光景です。