ORPHANED LAND

  • イスラエル出身のヘビーメタルバンド。英語を基本に、ヘブライ語、アラビア語も織り交ぜる。
  • 中近東のメロディー、楽器、合唱隊を取り入れ、中近東の和平を訴える曲を発表し続ける。社会的評価は大きい。

1
SAHARA

1994年。比較的ヘビーメタルに近いデスメタル。スラッシュメタルのようなメロディーの中に中近東風のメロディーが差し挟まれる。中近東風のコーラスがあるときは、民族楽器も使われることが多い。ボーカルは常にデス声というわけではなく、低い声ながらメロディーも歌う。キーボードは曲に多少付け足す程度の使われ方で、曲の全編に使われる訳ではない。7分から9分の曲が多いが、「ブレスト・ビー・ザイ・ヘイト」などは編曲に改善の余地がある。アラビア語の「アルディアール・アル・ムカディサ」以外の7曲は英語で歌う。

2
EL NORRA ALILA

1996年。キーボードが抜け5人編成。中近東の民謡や雰囲気を大きく取り入れ、独自性を強く打ち出した。複数の曲でバイオリンが使われる。ヘビーメタルが演奏の基調ではあるものの、ヘビーメタルとして完結する曲は少ない。2分台以下が15曲のうち5曲あり、長い曲でも6分と短くなっている。中近東のメロディーを多用したイスラエルのヘビーメタルバンドは、それ自体に存在価値を見出せるが、世界基準でアピールできるかとなると、さらに欧米への歩み寄りが必要だ。民謡への傾倒が大きすぎた。

3
MABOOL THE STORY OF THE THREE SONS OF SEVEN

2004年。ドラムが抜け、キーボードが加入、5人編成。ドラムはゲスト参加。前作までとは別のバンドというくらいに大きく飛躍した。ボーカルは通常の歌い方とデス声を両方こなすが、メインは通常の歌い方、デス声は補完的な使い方をしている。聖歌隊のような女性コーラスも頻繁に使う。ギターはリードギターとリズムギターの区別がなくなり、2人ともリードギターの役割を果たす。オーペス、アモルフィスを思わせる。サウンドの変化以上に重要なのがこのアルバムのメッセージ性だ。歌詞はユダヤ教、キリスト教の旧約聖書、イスラム教のコーランに出てくる共通の洪水神話を下敷きにして、3宗教の争いに対する神の破滅的懲罰を描いている。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教はもともと共通の神を信仰しているため、この物語が説得力を持つ。アルバム全体で物語を展開したことによって、このバンドが単なる中近東出身のヘビーメタルバンドではなく、中近東の融和を訴える社会性の強いバンドと認識されるようになった。

4
THE NEVER ENDING WAY OF ORWARRIOR

2010年。キーボードが抜け4人編成。ドラム、キーボードはゲスト参加。中近東風のメロディーが減り、ヨーロッパによくある曲の長いヘビーメタルになっている。これはプロデューサーにポーキュパイン・トゥリーのスティーヴン・ウィルソンを使ったことが原因とみられる。欧米のヘビーメタルバンド、ハードロックバンドに適用する手法をそのままこのバンドに当てはめた結果、民族楽器、中近東風メロディー、女性コーラスが減り、時代錯誤的なプログレッシブ・ヘビーメタルになってしまった。中近東のイスラエルから見たロックの価値観と、イギリス人の価値観では、サウンドの方向性を決める思想そのものが異なる。このアルバムで日本デビュー。

5
ALL IS ONE

2013年。ギターが交代、ドラムが加入、5人編成。ストリングスが8人、女声合唱が13人、男声合唱が12人参加する。オープニング曲のメインボーカルは実質的に混声合唱になっている。ストリングスとともに民族楽器も使い、キーボードをあまり目立たなくしたことは前作と異なっており、結果的にプログレッシブ・メタルの権威臭さが除去されている。ヘビーメタルの音を基調としながら、メロディーは中近東由来が多くなった。11曲のうち4曲にヘブライ語の歌詞が付く。コンセプト盤だった前作よりもはるかにアルバムのメッセージが理解しやすく、アルバムタイトル、ジャケットとともに、主張が明快だ。「アワ・オウン・メサイア」は「マブール」に出てくる3人の天使が再登場する。

6
UNSUNG PROPHETS&DEAD MESSIAH

2018年。ギターが交代。合唱は男女とも前作よりも人数が増えている。英語を中心に、ヘブライ語、アラビア語、ラテン語を使っている。ジャケットのメッセージ性が強く、ブックレットを見れば、抗議の対象がアメリカであることが分かる。前作までは主に中近東の3宗教による争いが題材だったが、このアルバムでは世界全体、歴史全体を扱っている。従ってメッセージは体制に吸着する大衆にも送られている。バンドとしては、大衆に訴えることが主眼だろう。前作と同様にストリングスと混声合唱、中近東風メロディーを織り交ぜたヘビーメタル。全体として戒めと怒りの要素が強いが、最も重要な曲は「ライク・オルフェウス」だ。オルフェウスは自らの音楽の力によって支配者を説得し、囚われた者を解放するギリシャ神話上の人物だ。オーファンド・ランドがオルフェウスの役割を果たすという決意表明の曲であり、この曲の最も重要な歌詞をブラインド・ガーディアンのハンジー・キアシュが歌っている。「ウィ・ドゥ・ノット・レジスト」「レフト・ビハインド」「マイ・ブラザズ・キーパー」は歌詞の一部が消されている。「ウィ・ドゥ・ノット・レジスト」はディックス、「レフト・ビハインド」はテイクン・アウェイと容易に推測できる。ディックス(男性器)を測るとは、暴力を誇示するということだ。「マイ・ブラザズ・キーパー」は消去された部分がやや長く、推測には時間がかかる。