SLIPKNOT

スリップノットは2000年代のロック、ラウドロック、ヘビーメタルにおいて最も重要なバンド。アメリカ、アイオワ出身。ボーカル、ギター2人、ベース、ドラム、DJ、サンプリング、パーカション2人の9人編成。全員がマスクをかぶり、メンバー全員に数字がつく。当初はハードでDJが活躍するサウンドだったが徐々にメロディアスな曲が増えている。

 
MATE. FEED. KILL. REPEAT.

1996年。ギター2人、パーカッション、サンプリングを含む7人編成。オープニング曲はデスメタル。ラップになる部分もあり、普通のヘビーメタルになる部分もある。最後の曲は20分超。

1
SLIPKNOT

2000年。パーカッションとDJが増え9人編成。ボーカルは各フレーズにおいて歌い出しから感情をためていき、絶叫によってその「ため」を解放する。メロディーを徐々に下降させて「ため」を作り、一気に上昇させて「ため」を解放させて聞き手に精神的快楽を与える手法は何百年も前からある。これと同じ手法をボーカルで、絶叫によって表現したというところが革新性の第1点。第2点はドローン効果である。サンプリングやDJがメンバーに含まれることにより、サウンド上の効果として低音に厚みとバリエーションが出る。したがって通常のバンド編成よりもドローン効果が大きくなり、聞き手の快楽度が増す。このバンドは、低音のバリエーションをはやりのギターのダウン・チューニングではなく、機械的なサンプリング音等でやったところが現代的で独自性がある。仮面がなくても成功しうるバンド。仮面によって匿名性とキャラクター性を同時に成立させ、ネットメディア時代の社会風潮を体現しているアーティストでもある。

 
WAIT AND BREED

2000年。シングル盤。珍しく長い歌メロを持つ。3曲で8分半しかないが3曲ともバージョン違い。

 
SPIT IT OUT

2000年。シングル盤。タイトル曲はアルバムと同じバージョン。初のライブ収録となる2曲がポイント。

2
IOWA

2001年。サンプリングの使用は前作より減った。バンド・サウンドに近くなり、普通になった分、ファンの幅も広がる余地を得た。「マイ・プレイグ」のように一緒に歌えるような覚えやすいメロディーが出てくるのもその一つだ。最後のアルバムタイトル曲は15分。「ピープル・イコール・シット」「ザ・ヘレティック・アンセム」収録。

 
LEFT BEHIND

2001年。シングル盤。ライブ2曲収録。

 
MY PLAGUE

2002年。シングル盤。ライブ2曲収録。

3
VOL.3:(THE SUBLIMINAL VERSES)

2004年。キーボードやアコースティック・ギターを使う曲がある。デビュー当初のように音がすき間なく詰まっているというサウンドではない。イメージに反して静かな曲が複数あるので、評価はいろいろ出てくるはずだ。メロディアスになったとも言える。「スリー・ニル」収録。

 
DUALITY

2004年。シングル盤。「ドント・ゲット・クロース」はアルバム未収録。

 
VERMILION

2004年。シングル盤。「スクリーム」は「VOL.3:(ザ・サブリミナル・ヴァーシズ)」の日本盤ボーナストラックの曲。「デインジャー・キープ・アウェイ」はアルバムとバージョンが違う。

 
9.0:LIVE

2005年。ライブ盤。各地の公演を集めており、1カ所でのライブではない。「マイ・プレイグ」以外のシングル曲はすべて入っており、人気のある曲も網羅されている。ベスト盤を作ってもこれと同じになるであろう選曲だ。演奏も観客も熱気がある。MCもあるのでライブの臨場感も損なわれない。

4
ALL HOPE IS GONE

2008年。一般的なラウド・ロックに近くなり、ボーカルに明確なメロディーがつく曲が多い。5人程度でも成り立つサウンドで、ターンテーブルやパーカッションの量が減っている。ハードなロックであることには変わりないが、デビュー当初のイメージが強いので落ち着いた印象を受ける。ロックンロールやメロディアスなロックのバンドと違い、いかにハードなサウンドを聞かせるかに主眼を置いたバンドなので、同じようなサウンドで人気を5年も維持するのは難しい。過去の有名バンドを見れば、レッド・ツェッペリンやメタリカは、ハードさによって人気を維持したのではなく、時代によって聞かせどころを変えて人気を維持した。スリップノットは人気が維持できるかどうかの難しい時期に来ているが、サウンド上の質的な変化で大きなインパクトは与えられていないように思われる。

 
IOWA 10TH ANNIVERSARY EDITION

2011年。「アイオワ」収録曲に2002年のライブとドキュメンタリー映像を追加した企画盤。

5
.5:THE GRAY CHAPTER

2014年。ギターとドラムが交代。ハードな曲が増え、「Vol.3:(ザ・サブリミナル・ヴァーシズ)」に似た傾向を持つ。サンプリングが前作よりもやや増えた。オープニング曲からハードな部分へ入るまでの時間が長い。スリップノットに曲の情緒性を求めていない者は、起伏に富んだミドルテンポの旋律をもどかしいと感じるだろう。メロディーも聞かせることができるという曲の体裁は、アーティストにとっては重要なのかもしれないが、若年層にはそれほど重要ではない。「スケプティック」「カスター」はこのバンドに期待されるサウンドの曲。

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WE ARE NOT YOUR KIND

2019年。パーカッションが抜け8人編成。ハードさとメロディーと非大衆性がバランスよく配合されている。それらは互いに反置する側面ではないが、どれかを突出させずに高い質でバランスよくまとめるのは難しい。「ネロ・フォルテ」「クリティカル・ダーリン」はハードさとメロディーが両立している。「インサート・コイン」「デス・ビコーズ・オブ・デス」「ホワッツ・ネクスト」は短いインスト曲で、「クリティカル・ダーリン」の最後や「マイ・ペイン」の最初にも雰囲気が異なるインスト部分が入る。したがって、アルバムの最初から最後まで2曲ごとに実験的なインスト曲が入っていることになる。「マイ・ペイン」はその雰囲気を延長したような曲。「スパイダーズ」はエレクトロニクスを中心に組み立てた曲。

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THE END,SO FAR

2022年。オープニング曲の「アデラル」は6分近くあるキーボード主体のロックで、スリップノットのアルバムのオープニング曲としてはハードさを出さない意外な曲だ。この曲と、真ん中の「ワランディ」と最後の「フィナーレ」は13人の合唱団が参加している。「ハイヴ・マインド」「ワランディ」「エイチ・スリー・セヴン・セヴン」はスリップノットのイメージ通りの曲。「アシディック」は70年代中期のブラック・サバスの2020年代版のような曲。前作も含め、少しずつ新しい要素を付け加えている。