THE WHITE STRIPES/THE RACONTEURS

ザ・ホワイト・ストライプスは姉のメグ・ホワイト(ドラム)と弟のジャック・ホワイト(ボーカル、ギター、キーボード)によるグループ。アメリカ出身。ジャック・ホワイトは2000年以降のロック・ギタリストとして最高峰と目される1人。ベースは存在せず、ボーカル、ギター、ドラムだけで強い求心力を持つライブを展開する。ジャック・ホワイトはザ・ラカンターズ、ソロでも活動する。

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THE WHITE STRIPES

1999年。姉のメグ・ホワイトがドラム、弟のジャック・ホワイトがボーカル兼ギター。自宅で録音され、ベースは不在。70年代のガレージ・ロックのようなサウンドで、ベースがない分、ギターとドラムの迫力が大きく伝わる。ジャック・ホワイトのボーカルはレッド・ツェッペリンのロバート・プラントに似ており、ギターはジミ・ヘンドリクスとレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジを思い出させる。楽器の数が少ないために緊張感が増幅される。日本盤は2003年発売。「ストップ・ブレイキング・ダウン」はロバート・ジョンソン、「ワン・モア・カップ・オブ・コーヒー」はボブ・ディランの「コーヒーもう一杯」のカバー。

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DE STIJL

2000年。オープニング曲から流れるようなメロディーがあり、一般性が増した。全体的にブルース寄りのサウンドで、自分の才能よりも影響を受けたアーティストへの賛辞を前面に出したアルバム。曲によってピアノ、ハーモニカ、バイオリンが適度に使われる。「デス・レター」はサン・ハウス、「ユア・サザン・カン・イズ・マイン」はブラインド・ウィリー・マクテルのカバー。タイトルの「デ・ステイル」は1917年にオランダで創刊された美術雑誌の名前。20世紀美術史では、抽象絵画主義とシュールレアリスムが2大潮流となるが、「デ・ステイル」は抽象絵画主義の中心となった雑誌であり、美術運動の総称。幾何学的デザインと少ない色数が特徴であるが、ジャケットは間違いなくそのスタイルを意識している。日本盤は2003年発売。

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WHITE BLOOD CELLS

2001年。前作の路線からブルースを減らした作風。メグ・ホワイトはバック・ボーカルをやるようになった。ギターの音が太くなったため、ベースがなくても違和感を感じることはなくなった。カバー曲はない。特定のジャンルやアーティストを連想させる要素が薄くなったことでバンドの個性が出た。このアルバムで日本デビュー。発売は2002年。

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ELEPHANT

2003年。オープニングの2曲は、ギターのワン・フレーズだけですぐに覚えさせてしまうほどの強い印象がある。「イン・ザ・コールド、コールド・ナイト」はメグ・ホワイトが初めてリード・ボーカルをとり、ドラムを演奏しない。ジャック・ホワイトによるピアノやオルガンが多くなり、ギターとともにキーボードがメロディー楽器の一角を占める。カバー曲を入れずにアルバム全体が長くなり、作曲能力、アレンジ能力が向上していることを示した。「セヴン・ネイション・アーミー」「ブラック・マス」収録。

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GET BEHIND ME SATAN

2005年。サウンドがかなり変化。メロディー楽器は多くの曲がピアノとなり、エレキ・ギターが出てくる曲は少ない。このアルバムで注目すべきは、メロディー楽器の交代よりも、ジャック・ホワイトのボーカルの表現力だと思われる。デビュー盤以来のロバート・プラント型ボーカルで、ピアノやアコースティック・ギター中心の曲でも細かい表情の違いを再現することができている。

 
WALKING WITH A GHOST

2006年。カバー2曲とライブ4曲のEP。カバーは両方ともスタジオ録音で、ごく最近のバンドのカバーをしている。

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ICKY THUMP

2007年。これまでどおりのサウンドだが、「イッキー・サンプ」「アイム・スローリー・ターニング・イントゥ・ユー」「ア・マーター・フォー・マイ・ラヴ・フォー・ユー」など、オルガンとギターが同時に演奏され、ライブでは再現できない曲がある。ギターが2本以上ないと不可能なサウンドもある。ただ、2人では演奏できなくても3人では可能なので、足で弾くオルガンなどを開発すれば2人でも再現可能だ。「コンクエスト」はパティ・ペイジのカバー。トランペットが入る。ボーナストラックの「ベイビー・ブラザー」はエリヴィス・プレスリーのような歌い方。

 
UNDER GREAT WHITE NORTHERN LIGHTS

2010年。ライブ盤。2枚組で、1枚目が92分のドキュメンタリー映画、2枚目が59分のライブCDとなっている。オープニング曲はライブ会場が暗転するところから始まり、エンディング曲の「セヴン・ネイション・アーミー」はライブの終了シーンで終わる。ボーカル兼ギター兼キーボードとドラム兼ボーカルの2人だけで、さらに多重演奏できない状況でライブを行うとどんなサウンドになるのかを、分かりやすく伝えている。もちろんサポート・ミュージシャンは使っていない。曲の途中で楽器を持ち替え、ボーカルもこなすジャック・ホワイトの才能をあらためて確認できる。不完全な編成が生み出す緊張感(スリル)を、バンドの求心力で解放している。

 
BROKEN BOY SOLDIERS/THE RACONTEURS

2006年。ホワイト・ストライプスのボーカル兼ギター、ジャック・ホワイトが参加している。4人編成。ベースとドラムはグリーンホーンズのメンバーで、ジャック・ホワイトが気に入っているという。ジャック・ホワイトがボーカルも突出した実力をもっていることを示すアルバム。あまり有名でない70年代のハードロック・バンドに近い。「ステディ、アズ・シー・ゴーズ」収録。「ブロークン・ボーイ・ソルジャー」はクロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングの「キャリー・オン」に似たリズム。ジャック・ホワイトのボーカルもいい。もう1人のボーカルであるブレンダン・ベンソンは低めの声で、ジャック・ホワイトと対照的だ。

CONSOLERS OF THE LONELY/THE RACONTEURS

2008年。ホワイト・ストライプスの曲を4人編成のバンドで演奏しているようなサウンド。ドラムはホワイト・ストライプスのメグ・ホワイトとは歴然とした差があり、安心感がある。アルバムタイトル曲、「サルート・ユア・ソリューション」はガレージロック。「ユー・ドント・アンダースタンド・ミー」「ホールド・アップ」「ファイヴ・オン・ザ・ファイヴ」はロックバンドを想定した曲になっている。「オールド・イナフ」はバイオリンとオルガン、「ザ・スウィッチ・アンド・ザ・スパー」「メニー・シェイズ・オブ・ブラック」はホーンセクションとピアノを使う。

HELP US STRANGER/THE RACONTEURS

2019年。前作から11年も経っているので、新しいバンドのアルバムとして聞いてもいいのかもしれないが、前作に近い曲調だ。ほとんど曲をオルガンを含む基本的なバンド編成で録音し、曲の構成もそれほど凝っていない。ジャック・ホワイトはボーカルもギターも特徴的で目立つ。最後の「ソーツ・アンド・プレイヤーズ」はマンドリンとバイオリンを使う。オープニング曲の「ボアード・アンド・レイズド」はアップテンポ。「シャイン・ザ・ライト・オン・ミー」はピアノ主体の曲。

 
BLUNDERBUSS/JACK WHITE

2012年。ジャック・ホワイトのソロアルバム。主にボーカル、ギターを担当し、曲によってピアノも弾く。ベース、ドラム、ピアノを含めた4人編成での録音が多い。ホワイト・ストライプスがやや柔らかく、古風になったような音で、ロックンロールというよりはそれ以前のサロン向けポップスのようなサウンドだ。ジャック・ホワイト特有の吸着するようなギターはあるが少ない。曲ごとに担当楽器がソロまで含めてすべて書かれているので、ジャック・ホワイトの演奏は特定しやすい。

RAZARETTO/JACK WHITE

2014年。オープニング曲はピアノを弾きながらボーカルをとり、2曲目以降はギターを弾きながら歌う。前作よりも参加するアーティストが多くなり、オルガン、ピアノ、シンセサイザー、バイオリン、ペダルスチール等があることを前提とした曲が多い。インスト曲の「ハイ・ボール・ステッパー」、シンセサイザーを2台使うアルバムタイトル曲が突出した印象を与えるのは豪快なギターがロックらしさを強調するからか。ガレージロック風のギターはいまだジャック・ホワイトのトレードマークだ。

ACOUSTIC RECORDINGS 1998-2016/JACK WHITE

2016年。ホワイト・ストライプス、ラカンターズ、ソロを通じ、アコースティック中心の録音となった曲を集めた企画盤。2枚組。1枚目はホワイト・ストライプス、2枚目はラカンターズとソロ時代の曲を収録している。アコースティックギターの曲だけではなく、ピアノ主体の曲も入っている。「アップル・ブロッサム」はエレキギターのソロがある。

BOARDING HOUSE REACH/JACK WHITE

2018年。ギター、ベース、ドラム、キーボード、パーカッションを基本とするソウル、ブルース、ロックになるが、いつの時代を標榜したとも言えない実験的なサウンドになっている。ソロアルバムでは初めて表現可能性の追求に踏み出したと言えるだろう。シンセサイザーやエレクトロニクス、あるいは編集で全体を聞きやすく整えず、適度に粗さや生々しさを残している。「ホワイ・ウォーク・ア・ドッグ?」はブルースロック、「コーポレーション」はパーカッションをうまく使った実験的なファンク。「アイス・ステーション・ジブラ」はレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンを思わせる。「オーヴァー・アンド・オーヴァー・アンド・オーヴァー」はホワイト・ストライプスを思わせる。「ゲット・イン・ザ・マインド・シャフト」は音の加工が大きい。「ユーモレスク」はドボルザークの有名曲をボーカル付きで収録。

FEAR OF THE DAWN/JACK WHITE

2022年。アルバムの序盤はジャック・ホワイトがギター、ベース、ドラム、シンセサイザーを1人で録音している。中判以降はバンド編成で、ドラムはゲスト参加に任せている。ギターは90年代のストーナーロックのように太い。アルバムタイトル曲は70年代前半のブラック・サバスのような音だ。「ハイ・ディ・ホー」はア・トライブ・コールド・クエストのQ・ティップがラップで参加しており、日本盤CDの訳詞は表記に工夫がある。次作はアコースティックアルバムになることが予告されているため、このアルバムの大部分は男性的イメージを押し出したロックになっている。