BATTLE BEAST

バトル・ビーストはフィンランドのヘビーメタルバンド。キーボードを含む6人編成。当初はギターを中心とするバンドだったが、途中からキーボードが主導するバンドとなった。女性ボーカルのノーラ・ロウヒモは歌唱力がある。

1
STEEL

2011年。1980年代後半のヘビーメタルを2010年代に再現しているようなアルバム。ボーカルは女性だが、他のバンドを圧倒するほどの、男性でもなかなか見つからない力のある声だ。ジューダス・プリースト、アイアン・メイデン、アクセプトのような英米型ヘビーメタルにキーボードを足したような曲調。ボーカルの迫力と、キーボード付きの80年代型ヘビーメタルという2点だけでバンドの存在意義はある。安易に高速演奏しないのもよい。日本盤は2012年発売。

2
BATTLE BEAST

2013年。ボーカルが交代。前任のボーカルほどの力強さはなく、特に高音での差は明らかだが、それでも女性ボーカルとしては十分力がある。キーボード、プログラミングの量が増えた。サイバーパンクで有名な「ニューロマンサー」をそのままのタイトルで使い、曲もそのイメージに合わせてシンセサイザーとプログラミングが目立つ音にしている。「マシーン・レヴォリューション」も同系統。高速で疾走する曲も含まれており、曲の変化には柔軟だ。ギターが時折ボーカルをとるが、アクセプトのウド・ダークシュナイダーにそっくりなのでアクセプトを思い出してしまう。曲の多くは日本のマンガ「ベルセルク」から着想している。70年代、80年代のバンドが映画や小説から影響を受けているのと同じように、2000年代以降のバンドはマンガから影響を受けている。バトル・ビーストはそれを証明するバンドだ。影響元に合わせて音楽も適切に変化させたのはすばらしい。「ブラック・ニンジャ」はブラック・サバスの「ヘッドレス・クロス」風。

3
UNHOLY SAVIOR

2015年。キーボードの比重がさらに大きくなり、アルバムタイトル曲はギターよりもキーボードがメロディーを主導する。「タッチ・イン・ザ・ナイト」はハードロックというよりもポップスの領域だ。ギターソロとボーカルの歌い方だけがヘビーメタルの雰囲気を維持している。「スピード・アンド・デンジャー」「ファー・ファー・アウェイ」はハードだ。

4
BRINGER OF PAIN

2017年。ギターが交代。キーボードの兄弟が加入。アルバムのほとんどをその兄弟が作曲している。ギターが作曲に関わった曲はギターが目立ち、ヘビーメタルと呼べる。キーボードが作曲した「ロスト・イン・ウォーズ」はハードだ。キーボード主体の「キング・フォー・ア・デイ」「ダンシング・ウィズ・ザ・ビースト」「ファー・フロム・ヘヴン」はロック、ポップスでも通用する。バトル・ビーストが一連のアルバムで展開するキーボード主導の曲は、ヘビーメタルとロックの定義に関する挑発だ。外形的にも自己認識としてもヘビーメタルのバンドが、「ダンシング・ウィズ・ザ・ビースト」「ファー・フロム・ヘヴン」のような曲を提示したとき、ヘビーメタルの拡大と好意的に捉えるか、ヘビーメタルのかく乱と否定的にとらえるか、聞き手が試される。

5
NO MORE HOLLYWOOD ENDINGS

2019年。オープニング曲の「アンブロークン」や「エデン」は、ヨーロッパによくあるメロディアスなヘビーメタルに近くなり、バトル・ビーストも時流を無視できないと思わせる。「アンフェアリー・テイルズ」以降、80年代のヘアメタルに近い曲が多くなる。

6
CIRCUS OF DOOM

2022年。オープニング曲はミュージカルのような展開。アルバム全体も80年代の軽薄なポップさは薄くなり、90年代以降ヨーロッパで流行したメタルオペラの雰囲気がある。キーボードの音の中心を、80年代的なシンセサイザーから、オーケストラで再現できるストリングスや金管楽器、打楽器、合唱に移している。「ロシアン・ルーレット」「フリーダム」ではヘビーメタルを超えたロックのポップさを残す。曲の質が大きく上がり、ハードな演奏でなくとも編曲すればロックとしてヒットしうる。ボーカルのノーラ・ロウヒモの歌唱力が高く、メロディーの抑揚を大きくとった曲を提供できる上、3分から5分の曲でも展開に無理がない。ヘビーメタルとロックのバランスがうまくとれ、他のバンドにはなかなかできないアルバムになった。