BJORK

ビョークはアイスランド出身の歌手、作曲家。1965年生まれ。シュガーキューブスのボーカルとして世界的にデビューした後ソロデビュー。エレクトロニクスと編集技術を駆使した最先端のサウンドを提示している。アルバムはいずれもアート性が高い。代表作は「ホモジェニック」。

1
DEBUT

1993年。アイスランドのロック・バンド、シュガーキューブスの女性ボーカルのソロ・アルバム。ボーカルはほぼ全ての部分でビョークの単声で、重ね録りは少ない。エレクトロニクスやプログラミングを用いたポップスが中心。パーカッション、ストリングス、キーボードがメロディーを主導し、ギターの音はほとんど出る幕がない。このアルバムに限らず、ビョークのアルバムは、再現不可能なようでありながら歌手としての実力がよく分かるボーカルが個性となっている。バックでどんな演奏が展開されていようとビョークの声があればそれがビョークのサウンドだ。

HUMAN BEHAVIER

1993年。シングル盤。「ヒューマン・ビヘイヴィアー」とそのバージョン違い計6曲収録。

VENUS AS A BOY

1993年。邦題「少年ヴィーナス」。シングル盤。「ヴァイオレントリー・ハッピー」はオルガンだけで演奏される。

PLAY DEAD

1993年。シングル盤。「プレイ・デッド」とそのバージョン違い計4曲。

VIOLENTLY HAPPY

1994年。シングル盤。「アンカー・ソング」「来て…」「ヒューマン・ビヘイヴィアー」はスペインでのアコースティックライブ。

BIG TIME SENSUALITY

1994年。シングル盤。

2
POST

1995年。楽器が全体的にアコースティック、器楽中心になり、エレクトロニクス、キーボードの使用は減った。意図してやっているとは思わせないで、自らをうまくコントロールできないと歌えないであろうボーカルは、それだけで価値である。実際は音楽教育を受けているというが、そうした教育や訓練を受けていないかのような歌い方が、ポピュラー音楽慣れした聞き手に新鮮に映る。オーケストラ編曲は70年代に「ツァラトゥストラはかく語りき」をヒットさせたブラジル人キーボード奏者、エウミール・デオダート。

ARMY OF ME

1995年。シングル盤。「アーミー・オブ・ミー」とそのバージョン違い計5曲。

ISOBEL

1995年。シングル盤。「イゾベル」とそのバージョン違い計4曲。

IT'S OH SO QUIET

1995年。シングル盤。「ハイパーバラッド」のバージョン違い2曲収録。

HYPERBALLAD

1996年。「ハイパーバラッド」とそのバージョン違い計4曲。

JOGA

1997年。シングル盤。「イマチュア(ビョークス・バージョン)」はアルバム収録曲とは違うバージョン。

3
HOMOGENIC

1997年。ドラム、ベース等のリズムは人工的サウンド中心になり、メロディーはオーケストラやキーボードによるストリングスが多い。アルバムの統一感は過去最高ではないか。アコーディオンは日本のCOBAが参加。「ハンター」「ヨーガ」収録。謝意のところにRZAとウータン・クランの名前がある。

BACHELORETTE/JOGA

1998年。「バチェラレット」と「ヨーガ」のバージョン違いを各5曲、計10曲収録。

4
SELMASONGS

2000年。ビョークが主演した映画のサウンドトラック。過去のアルバムよりも厚いオーケストラサウンド。女優のカトリーヌ・ドヌーブ、レディオヘッドのトム・ヨークとデュエットしている。

5
VESPERTINE

2001年。「ホモジェニック」と同系統のサウンド。インダストリアル・ロック寄りともされる。「ペイガン・ポエトリー」はすばらしい。しかし、この雰囲気とボーカルはマンネリ化を招きつつある。

HIDDEN PLACE

2001年。シングル盤。「ヴェランディ」はオーケストラを使ったいい曲。アルバムに収録してもよかった。

PAGAN POETRY

2001年。シングル盤。

COCOON

2002年。シングル盤。

GREATEST HITS

2002年。ベスト盤。ファンの人気投票による選曲なので、人気曲が集まっている。「イッツ・イン・アワ・ハンズ」は新曲。解説には人気投票の順位、これまでのアルバム、シングル、DVDのリストが掲載されている。

IT'S IN OUR HANDS

2002年。シングル盤。

6
MEDULLA

2004年。ほとんどの音を人間の声で実現している。ピアノ以外の音はすべて人間の声だというが、だからすばらしいというわけではない。声はビョーク以外の人も使っており、加工しすぎて人間の声に聞こえない音もある。独自の世界を築いているが、それはデビュー以来既に築かれており、今回新たな何かを築いたかどうかは分からない。

WHO IS IT

2004年。

THE MUSIC FROM DRAWING RESTRAINT 9

2005年。邦題「ミュージック・フロム「拘束のドローイング9」」。現代美術家が制作する映像のサウンドトラック。11曲のうちビョークが歌うのは3曲で、ボーカルがない曲も多い。捕鯨文化をテーマにしており、特に日本の捕鯨を扱っているため日本の伝統音楽が取り入れられている。オープニング曲はボニー・プリンス・ビリーがボーカルを取る。「ハンター・ヴェセル」「ヴェセル・注連縄」は金管合奏。「注連縄」「アンタークティック・リターン」は宮田まゆみが笙を演奏する。「ホログラフィック・エントリーポイント」は10分にわたる能の地謡。ビョークのスタジオ録音盤としては日本文化に最も傾倒した作品と言えるが、日本以外の国では特殊な作品と認識されるだろう。

7
VOLTA

2007年。「ホモジェニック」「ヴェスパタイン」の路線。パーカッションや減衰音を重ねてサウンドを作り、多彩な声で世界を作る手法は変わらない。「メダラ」がイレギュラーなサウンドだったので、それを除けば継続性があると言える。1曲目のイントロはジョン・コンゴスの「ステップ・オン」を思わせる。2、3曲目はホーン・セクションで聴かせる曲。2曲目はハウス風リズム、3曲目と10曲目は男声ボーカルとデュエット。5曲目は中国琵琶奏者が参加。「アース・イントゥルーダーズ」「ホープ」「イノセンス」はヒップ・ホップ系のティンバランドがプロデュースしており、「ホープ」はティンバランドの色が出ている。アフリカやアジアの民族楽器をポピュラー音楽に多用するのは、遅ればせながらの多文化主義、文化相対主義の具現化と解釈できる。

8
BIOPHILIA

2011年。エレクトロニクスと人の声でほとんどの音を作っており、スタジオで注意深く編集、合成されたサウンドになっている。未開世界の呪術や伝承音楽を人工的に再構築したような雰囲気がある。そのような雰囲気になるのは、演奏とともにビョークの眩惑的なボーカルが大きな役割を果たしている。「クリスタライン」「サクリファイス」「ミューチュアル・コア」はハードなテクノ・ビートが入る。

BIOPHILIA LIVE

2014年。ライブ盤。「バイオフィリア」収録曲を中心に、「ヒドゥン・プレイス」「イゾベル」等、過去のヒット曲を挟む。ギター、キーボードといった一般的な楽器を使わず、新しく考案された楽器を使う。個々の楽器がどういうものかというよりも、ほとんどの人が未聴の音であることを重視して使われている。アナログ楽器と技術の融合はビョークが生まれる前から試みられているが、それ自体よりもそこから出てくる音を通じて未聴感の拡大を狙っている。女性コーラスを24人も集めているのは、未聴の対極にある人間の声と対比しているとも言える。ロンドンでの録音。曲中は静かで、終わると歓声が上がるのは客層の特徴だろう。

9
VULNICURA

2015年。9曲のうち6曲には「9カ月前」から「11カ月後」までの副題がついている。ビョークはシンガー・ソングライターなので曲に個人的経験が反映されていくが、このアルバムではそれが強く出ている。特に「ブラック・レイク」では、エレクトロニクスによるリズムを休止してシンセサイザーを持続する部分に、聞き手の想像の余地を残す。副題のついていない3曲はストリングスがやや減るため、情緒に傾いた部分が少なく、音楽的に独創性が残っている。「アトム・ダンス」から「クイックサンド」はそれほど陰鬱ではない。9曲のうち7曲はアルカがプロデューサーとして大きく関わっている。

10
UTOPIA

2017年。前作に続きアルカが大きく関わり、14曲のうち12曲はビョークとアルカが共同でプロデュースする。アルカが主導する人工音、10人以上のフルート奏者、アイスランドの合唱団、鳥の鳴き声のサンプリング音をメインにして曲を構築している。これまでのアルバムで最も長い収録時間となっているが、使われる音の素材がほぼ決まっているので不意打ちの未聴音で緊張感を強いることはない。ビョークはフルートにこだわりがあるようで、ジャケットにもフルートを登場させている。喉にも穴が開いている。

11
FOSSORA

2022年。プログラミングやサンプリングを主にリズムとドラムに使い、メロディーを構成する音に伝統楽器を多用する。1曲ごとに参加者が公表されており、弦楽器と木管楽器が多い。「アトポス」「ヴィクティムフッド」「ファンガル・シティ」「フォローラ」に出てくるクラリネット6人とオーボエ1人は共通。「アンセストレス」と「ファンガル・シティ」の弦楽器10人と指揮者も同じ。「アラウ」に参加しているフルート奏者12人は全員が前作の「ユートピア」に参加している。13曲のうち2分以下の3曲は楽器奏者が参加せず、ビョークがほぼ単独で作曲している。「バイオフィリア」や「ユートピア」と同じように人工的な音と自然的な音を明確に分けて、溶解させずに混交したまま曲を成立させる。この手法は、人工物と人間や自然をどう調和させるかというテーマに行き着く。「アトポス」や「ファンガル・シティ」「マイシーリア」という曲名とジャケットから、このアルバムの発想の源が菌類、キノコであることは明らかだ。分類を拒否するかのように不定型の増殖を続ける菌類を、自由の象徴として興味をそそられるのは想像に難くない。