ブラック・カントリー・ニュー・ロードはイギリスのロックバンド。サックス、バイオリンを含む7人編成。ジャズと中東欧音楽に影響を受けたポストパンク。
2021年。オープニング曲はインスト曲。ボーカルはボブ・ディラン、ルー・リード、ソニック・ユース、近年ではビリー・アイリッシュが使う、語るような歌い方を多用する。メロディーに合わせた歌い方よりもメッセージ性が強く出る。シャンソンでは一般的な歌い方だ。サックスとバイオリンがギターやキーボードとともにメロディーの中核をなし、ジャズ、中東欧音楽、ポストパンクを思わせる即興の多いロックをやっているため、他のバンドとの音楽的な差は大きい。語り口調のボーカル、中東欧音楽、ジャズ、ポストパンクはいずれも個別に、以前からあった表現形態だが、ほとんど誰も折衷してこなかった。これらの表現に共通するのは、即興になじみやすいということだ。このアルバムでも「シンシア・フェア」などは緊張感がある。中東欧音楽が社会的少数者であるロマ、クレズマー、ユダヤにつながることも、欧米社会が無視できないところだ。アメリカのアルメニア人がその文化を持ってシステム・オブ・ア・ダウンでデビューし、イギリスの南アジア人がエイジアン・ダブ・ファウンデーションとしてデビューしたのと同じように、ブラック・カントリー・ニュー・ロードもまた、その登場自体が社会性を帯びる。
2022年。即興演奏のライブ感があった前作に比べ、このアルバムではアンサンブルの整合感がある。ボーナストラックを除く10曲のうち、アナログ盤では7曲目までが1枚目、3曲が2枚目となっている。2枚目の3曲は7分、9分、13分と、どれも1枚目の曲より長い。キーボードはピアノが中心で、サックスとともにジャズの雰囲気をつくり、バイオリンとともに室内楽の雰囲気をつくる。そこにギター、ベース、ドラムが乗れば、アメリカならオルタナティブロック、イギリスならポストパンクと解釈される。途中で曲調が変化する曲が多く、作曲での技巧が曲を長くしている。アルバムの全体的な流れと曲の関連性が考えられており、複数の曲で歌詞にコンコルドが出てくる。ビリー・アイリッシュも2曲で出てくる。2020年代に入り、アルバムやCDを前提とした創作のあり方は薄れているだろうが、複数の曲を一つのまとまった作品とする表現活動はしばらくなくならないだろう。このアルバムの複数の曲が互いに関連しているところをみると、将来、重厚なコンセプト盤ができることが予想される。