BLIND GUARDIAN/DEMONS&WIZARDS

ブラインド・ガーディアンはドイツのヘビーメタルバンド。ボーカル兼ベースのハンジー・キアシュを中心とする4人編成。ハロウィン、ガンマ・レイ、ヘヴンズ・ゲイトとともにジャーマンメタルを黎明期から支えた。物語性の強い歌詞を好み、サウンドは大仰でハード。コーラスを重視している。

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BATTALIONS OF FEAR

1988年。デビュー盤。ボーカルがベースを兼任、ギター2人の4人編成。若さに任せた勢いのある曲が占める。8曲目はドボルザークの「新世界から」の有名フレーズを使用。日本盤は1990年発売。

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FOLLOW THE BLIND

1989年。ハロウィンのカイ・ハンセンがゲスト参加。ビーチ・ボーイズの「バーバラ・アン」をカバーしている。ハンジー・キアシュの重層コーラス趣味を確認できる初期の例。ヨーロッパのバンドでありながら、アメリカのポップなコーラス・ハーモニーに影響を受けている点が面白い。日本盤は1990年発売。

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TALES FROM THE TWILIGHT WORLD

1990年。日本デビュー盤。コーラスも重厚になった。この作品からジャケットもアルバムごとに色調が統一され、トータル芸術性を高めている。スピード、メロディーともに、すでに一級の評価を得ていた。前作に続きハロウィンのカイ・ハンセンが参加、リード・ボーカルもとっている。4曲目でバンド初のバラードを収録。「ロード・オブ・ザ・リングス」とはもちろんトールキンの「指輪物語」。

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SOMEWHERE FAR BEYOND

1992年。コンセプト性を究極的に押し進めた点で、以降のアルバムの基本的形を示した。幻想文学をヘビーメタルに導入し、のちにエピック・メタルのルーツとなる重要なアルバム。

 
TOKYO TALES

1993年。92年12月の東京公演を収録したライブ盤。観客の合唱の声が大きく、ドイツのバンドのライブにおけるファンのあるべき姿を示すことになった。ライブ盤の出来そのものよりも、ファンのあり方に注目が集まった点に関しては、日本のアイドルで初めて親衛隊ができた桜田淳子や、ファンが連帯してチャート成績向上に貢献したキャンディーズに通じる。ただ、ファンが最初から最後まで一緒になって歌う態度はオアシスやレッド・ホット・チリ・ペッパーズにもあり、逆にそうした態度を特異とみなすヘビーメタル・ファンの方が乖離しているとも言える。

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IMAGINATIONS FROM THE OTHER SIDE

1995年。アーサー王物語や十字軍などを素材に、独自の幻想文学の世界をヘビーメタルで体現している。ツイン・リードギターとコーラスでサウンドの独自性を保っているが、他のバンドも同様のコンセプトでアルバムを発表するようになり、オリジナリティは薄れつつある。ユーライア・ヒープのカバー「魔法使い」収録。

 
A PAST AND FUTURE SECRET

1995年。「イマジネーション・フロム・ジ・アザー・サイド」の先行シングル。「パースト・アンド・フューチャー・シークレット」のオーケストラ・ミックス収録。

 
BRIGHT EYES

1995年。第二弾シングル。「ミスター・サンドマン」はコーデッツ、「ハレルヤ」はディープ・パープルのカバー。「イマジネーション・フロム・ジ・アザー・サイド」と「パースト・アンド・フューチャー・シークレット」のデモ・バージョン収録。

 
THE FORGOTTEN TALES

1996年。カバーと別バージョンとライブを集めた企画盤。「ミスター・サンドマン」は1954年のコーデッツ、「サーフィン・U.S.A.」と「バーバラ・アン」はビーチ・ボーイズ、「魔法使い」はユーライア・ヒープ、「スプレッド・ユア・ウィングス」はクイーン、「トゥ・フランス」はマイク・オールドフィールドのカバー。ジャンルに関係なく華麗なコーラスを聞かせるグループに影響を受けていることは隠しきれない。

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NIGHTFALL IN MIDDLE-EARTH

1998年。J.R.R.トールキンの「シルマリルの物語」を題材にしたコンセプト盤。この「シルマリルの物語」は、キリスト教伝播以前の古代ゲルマン社会(ケルト人が生きた多神教的世界)への憧憬から生まれたとされる創作神話で、物語の設定は「指輪物語」にも受け継がれている。ハンジー・キアシュがトールキンに傾倒する心理は、アーサー王物語に惹かれた中世以降のヨーロッパ貴族のそれと同じであろう。古代中国や日本の戦記物語にロマンを感じる若者も同様だ。曲と曲をつなぐ短いSEが11曲、通常のスタイルの曲が11曲。

 
MIRROR MIRROR

1998年。先行シングル。ジューダス・プリーストのカバー「死の国の彼方に」収録。「ミラー・ミラー」は「鏡よ鏡よ鏡さん・・・」のこと。ライブ2曲収録。

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A NIGHT AT THE OPERA

2002年。ブラインド・ガーディアンは新作アルバムをリリースするとき、プレス向けに曲目の解説をしているのかどうか分からないが、少なくともヨーロッパの古い伝説に詳しくない日本人が、「バトルフィールド」がヒルデブラントの歌であるとか「メイデン・アンド・ミンストレル・ナイト」がトリスタンの話だと理解するのは難しい。ヒルデブラントの歌がドイツの古詩であることは調べれば分かるが、歌詞を見て直ちにそれを判断するのは至難だ。ブラインド・ガーディアンが仮にファンサービス旺盛でないバンド、つまり曲についてあまり説明しないバンドだった場合、サウンドやオーケストレーション、SEなどに関してバンド側が意図している効果を正しく理解できる人は文学に詳しい人だけになるだろう。このアルバムは、アーティストの意志によっては、作品が正しく理解されないかもしれないという危うさを感じさせ、聞き手に勤勉な態度を促す。サウンド、オーケストレーション、コーラスなどは従来通りの音。善し悪しは別にして、ここ数作品はサウンド面での新たな挑戦がない。

 
AND THEN THERE WAS SILENCE

2001年。「ナイト・アット・ジ・オペラ」からの先行シングル。ジャケットに描かれるフレームはケルトの組み紐紋、ブックレットの歌詞はルーン文字フォント、挿絵はギリシャ彫刻。徹底して古代ヨーロッパにこだわっている。

 
LIVE

2003年。2枚組ライブ盤。ヨーロッパを中心に約20カ所で録音しており、日本も入っている。ベースとキーボードはゲスト参加で演奏し、ハンジー・キアシュはボーカル専任となった。ヨーロッパの観客は日本のようにどの曲でも一緒に歌ったりしないが、ミドルテンポの曲は歌う。圧倒的に男性が多そうだ。曲間の歓声がサッカーと同じなのはヨーロッパだけの現象だろう。

 
FLY

2006年。シングル盤。「スカルズ・アンド・シャドウズ」はアコースティック・バージョンで、実際のサウンドは民謡風といってもよい。「ガダ・ダ・ヴィダ」はアイアン・バタフライのカバー。ボーカル・メロディーはスレイヤーのバージョンより忠実。

8
A TWIST IN THE MYST

2006年。メロディーが覚えやすくなり、どの曲も4、5分で収まっている。コーラスは厚いので大仰さはまだ残るが、物語先行の長い曲がなくなったことで聞きやすくなっている。80年代から90年代前半のように、曲全体がスピーディーというのも少ない。ギターのメロディーひとつひとつに明確な抑揚があり、ボーカルとコーラスとギターがそれぞれ入れ替わるように主導権を取っていく。

 
ANOTHER STRANGER ME

2007年。シングル盤。5曲のうちアルバム収録曲が2曲、アルバム収録曲のデモ・バージョンが2曲。残りの1曲は「私の小さな夢」で、最初にヒットしたのは1931年、ウェイン・キングのオーケストラだった。ブラインド・ガーディアンがこれまで「バーバラ・アン」や「ミスター・サンドマン」をカバーしてきた経緯からすると、1968年のママス&パパス、もしくは1968年のママ・キャスのカバーとする方が妥当だ。ルイ・アームストロングやエラ・フィッツジェラルド、フランキー・レインもカバーした有名曲。

 
A VOICE IN THE DARK

2010年。シングル盤。タイトル曲はいつも通りのサウンド。「ユー・アー・ザ・ヴォイス」はジョン・ファーナムのカバー。ジョン・ファーナムはリトル・リバー・バンドのボーカルで、ブラインド・ガーディアンと同様、分厚いコーラスを得意とするオーストラリアのバンドだった。

9
AT THE EDGE OF TIME

2010年。アルバムの最初の曲と最後の曲がともに9分前後あり、この2曲はオーケストラとともに映画音楽風のサウンドになっている。それ以外のスピーディーな曲はバンドサウンドで、ミドルテンポの曲は管楽器や弦楽器の補助を得ながら民謡風サウンドになる。計算された緻密なコーラスはどの曲でも使われており、ライブでメンバーが再現するのはほぼ不可能。ボーカルのハンジー・キアシュが高い声を連発しており、デビューから20年以上経っても衰えていない。

10
BEYOND THE RED MIRROR

2015年。2枚組。ハンジ・キアシュが創作した物語を歌詞にしている。前作と同様にアルバムの最初と最後は9分台となっている。1990年代からずっと物語性の強い曲、アルバムを出し続けているが、歌詞から曲を作るという手法は歌詞に合わせてサウンドを当て込んでいくということになり、それは既存のサウンドイメージの再構成だ。したがって音の新しい要素を見出すのは難しくなる。物語の内容に踏み込もうと思わない聞き手にとってはいつも通りのサウンド。メロディアスで大仰なヘビーメタルを好む聞き手にとっても安心できる。長くない曲だけのアルバムも欲しいところだ。2枚目の「ドゥーム」は続編の最初の曲という。

LIVE BEYOND THE SPHERES

2017年。ライブ盤。3枚組。

LEGACY OF THE DARK LANDS/BLIND GUARDIAN TWILIGHT ORCHESTRA

2019年。ブラインド・ガーディアンのボーカル、ハンジー・キアシュが幻想文学を題材に、オーケストラ用の曲を作った。いわばハンジー・キアシュの個人的嗜好を具体化したアルバム。オーケストラのレベルは高くない。オーケストラ演奏は管楽器が多用され、弦楽器の使い方に難がある。シューマンの交響曲のような厚塗りの響きで、1つの楽器がソロをとるようなところはほとんどない。コーラスはクラシックの合唱とロックのコーラスを併用する。1曲ごとに20秒から1分半のナレーションが入り、物語を進行させるジングシュピールのような形式。ブラインド・ガーディアンはもともと社会から遊離した曲が多かったために英米では長く受け入れられなかったが、ハンジー・キアシュ個人とはいえオーケストラと協演することで権威と同化してしまい、評価が難しくなっている。ただ、その方向が一概に悪いとは言えない。

 
DEMONS&WIZARDS/DEMONS&WIZARDS

2000年。ブラインド・ガーディアンのボーカル、ハンジー・キアシュとアイスド・アースのギター、ジョン・シェイファーが結成したグループ。ジョン・シェイファーはベースも兼任、ドラムはアイスド・アースのメンバーが演奏している。アイスド・アースの演奏をバックに、ハンジー・キアシュが歌っているサウンドで、曲の雰囲気もアイスド・アースに近い。コーラスはブラインド・ガーディアンほどではないが、アイスド・アースよりは厚め。ブラインド・ガーディアンもアイスド・アースも歌詞の傾向は同じなので、このアルバムでも同系統の幻想文学的作風になっている。ハードな曲よりもミドルテンポの曲が多い。日本盤ボーナストラックの「ホワイト・ルーム」はクリームのカバー。

 
TOUCHED BY THE CRIMSON KING/DEMONS&WIZARDS

2005年。前作よりも多くのゲスト・ミュージシャンが参加。ドラムはライオット、ハルフォードのボビー・ジャーゾンベック。最初の3曲はハードな曲を並べているが、4曲目以降は前作のミドルテンポの曲と同路線。バックの演奏はアイスド・アースそのもの。歌詞はハンジー・キアシュの意向が強く出ている。最後の曲はレッド・ツェッペリンの「移民の歌」のカバー。