GHOST

ゴーストはスウェーデンのハードロック、ヘビーメタルバンド。2010年代を代表するハードロックバンド。反キリストをテーマとすることは、これまでのブラックメタルバンドと同じだが、それをヘビーメタルやデスメタルのような男性的威圧感に頼らないハードロックで表現する。ゴーストが反キリストのテーマを通じて発するメッセージは、人間の弱さへの共感だ。

1
OPUS EPONYMOUS

2010年。バンドのメンバーを明らかにしていないが、ボーカル、ギター、ベース、ドラム、キーボードを基本とするようだ。キーボードはオルガンと古風なシンセサイザーで、1970年代前半のイギリスのロックを思わせる。オープニング曲の「デウス・カルパ」とエンディング曲の「ジェネシス」はインスト曲。収録曲のタイトルからすると、ブラックメタルに通じる悪魔主義が感じられる。アルバムのテーマは反キリストの出現。曲調はハードロックのような分かりやすさがある。メロディーの傾向は暗め。「エリザベス」はマーシフル・フェイトのような曲。日本盤はビートルズの「ヒア・カムズ・ザ・サン」のカバーを収録。日本盤は2011年発売。

2
INFESTISSUMAM

2013年。6人編成。バンドのメンバーとは別に、合唱隊が参加している。アルバムタイトルのオープニング曲は合唱隊が歌う。ボーナストラックを除けば10曲。オルガンと合唱を主体とするややサイケデリックな70年代ハードロック。ボーカルの音域は広くないが、合唱をうまく使うことでメロディーの抑揚を付けている。「ボディ・アンド・ブラッド」はポップだ。「アイドルアトライン」はホリーズのような60年代ポップスを思わせる。「グレイ/ゾンビ・クイーン」「モンストランス・クロック」はレコードでのA面、B面の最後の曲にあたるためか、余韻の無音が長い。日本盤ボーナストラックの「アイム・ア・マリオネット」はアバ、「ウェイティング・フォー・ザ・ナイト」はデペッシュ・モードのカバーで、2曲ともフー・ファイターズのデイヴ・グロールがドラムを演奏している。全米28位。

IF YOU HAVE GHOST

2013年。EP盤。カバー4曲とライブ1曲を収録。カバーのうち2曲は「インフェスティスマム」の日本盤ボーナストラックとして収録されている。全米87位。

3
MELIORA

2015年。アルバム全体が物語になっている。神が存在しなくなった後の人間を描く。神はキリスト教の神に限らず、一般的な宗教に広くみられる創造主が想定されている。神が存在しなくなった後の人間は新たな神を求めるが、その神は救世主かどうか分からない。それでも神を求める人間の弱さと不完全さ、未熟さ、そこにつけ込む未知の存在を10曲で綴る。神とはショック・ドクトリンと言ってもいいだろう。70年代後半から80年代のキーボード付きロックに近く、ボーカルは歌詞が全て聞き取れるほどに聞きやすい。宗教性を感じさせる合唱はそれほど多くないが、要所で使われる。全米8位、全英23位。

POPESTAR

2016年。EP盤。「スクエア・ハンマー」はアルバム未収録曲。「ノクターナル・ミー」はエコー&ザ・バニーメン、「アイ・ビリーヴ」はシミアン・モバイル・ディスコ、「ミッショナリー・マン」はユーリズミックス、「バイブル」はスウェーデンのロックバンドのカバー。シミアン・モバイル・ディスコの曲だけが2007年、それ以外の3曲は80年代の曲。全米16位、全英85位。

CEREMPNY AND DEVOTION

2018年。ライブ盤。

PREQUELLE

2018年。このアルバムは歌詞のどこにも中世やペストに関わる具体的単語は出てこないが、中心人物によると、ペストを借景としているという。ペストに覆われた暗黒の世界というような、評価の低い多数のブラックメタルやデスメタルバンドの描き方ではなく、極限状態で人間はどう生きるかをテーマとしている。従って、ペストのような疫病に限らず、ヴィクトール・フランクルの「夜と霧」に通じる永遠のテーマが議論される。その象徴的な曲が「ライフ・エターナル」だ。合唱や教会オルガンなどの宗教性を持った音はほとんどなくなり、キーボードを主体とする80年代のロック。ボーナストラックの「イッツ・ア・シン」はペット・ショップ・ボーイズ、「雪崩」はレナード・コーエンのカバー。全米3位、全英10位。

IMPERA

2022年。ジャケット以外はブラックメタルの要素をほとんど感じさせなくなった。ローマ帝国や戦間期ドイツを思わせる歌詞はあるが、アルバム全体が「帝国」に関する歌詞になっているわけではない。曲は意図的な時代錯誤ともいうべきメロディアスなロック。曲のイントロで80年代のロックに敬意を示すことが多く、「カエサリオン」は「ウォーク・オン」のころのボストン、「スピルウェイズ」はボン・ジョヴィ、「コール・ミー・リトル・サンシャイン」は「インサイド・インフォメーション」のころのフォリナー、あるいは「アイ・トゥ・アイ」のころの220ボルト、「グリフトウッド」はヴァン・ヘイレンを思わせる。他のアルバムに比べ、歌詞にも曲にも軽薄さがある。全米3位、全英10位。