KANYE WEST

  • アメリカのヒップホップ・アーティスト。もともとプロデューサーで、ラップの技能よりもサウンド作りを得意とする。
  • サンプリングは白人にも知られているソウルの有名曲が多い。デビュー当初から多数の賞を獲得している。

1
THE COLLEGE DROPOUT

2004年。挑発的で自己肯定の強い従来のヒップホップから離れた作風で、普通の生活を送っているアフリカ系アメリカ人や良識のある白人から支持された。バックの演奏を自分で一から作るのではなく、多くをサンプリングによって構築する。カニエ・ウェストは選曲とサンプリング方法とビート作りの3つを柱として曲を作っている。サンプリングする曲はこれまでの制作者とそれほど変わるところはないが、ソウルのレコードを高速回転させるというのはこれまでにあまりなかった手法だった。「スルー・ザ・ワイア」「オール・フォールズ・ダウン」収録。サンプリングにはローリン・ヒル、カーティス・メイフィールド、ブラックジャック、ルーサー・ヴァンドロス、チャカ・カーン、アレサ・フランクリン、ベット・ミドラー等を使用。

2
LATE REGISTRATION

2005年。サンプリングのもとになっている曲がサウンドの多彩さに貢献し、ストリングスやホーン・セクション、女声ボーカルがアルバムの随所で聞きどころになる。サンプリングにはナタリー・コール、カーティス・メイフィールド、レイ・チャールズ、ビル・ウィザーズ、エッタ・ジェームス、シャーリー・バッシー、スティービー・ワンダー、オーティス・レディング等。「ドライヴ・スロウ」でサンプリングされているハンク・クロウフォードの「ワイルドフラワー」はもともとはスカイラークの曲で、ハンク・クロウフォードのバージョンはスカイラークのカバー。「ゴールド・ディガー」「ダイヤモンドは永遠に」収録。

3
GRADUATION

2007年。サンプリングの選曲がやや変わり、ソウルやR&Bからロック、ポップスに移っている。「ストロンガー」はダフト・パンクが参加し、「ホームカミング」はコールドプレイのボーカル、クリス・マーティンが参加している。聞いてすぐに分かる声だ。「バリー・ボンズ」は90年代に活躍したプロデューサー、DJプレミアがスクラッチを入れている。ジャケットもアメリカで評価の高い村上隆のイラストになり、イメージが変わったことを印象づける。サンプリングされているのはエルトン・ジョン、スティーリー・ダン、ダフト・パンク、マイケル・ジャクソン、パブリック・エナミー、マウンテン、カン、ローラ・ニーロ、311等。カンは「エーゲ・バミヤージ」の「シング・スワン・ソング」がサンプリングされており、日本人ボーカルのダモ鈴木も作曲者として表記されている。パブリック・エナミーは「ブリング・ザ・ノイズ」をサンプリングし、アンスラックスと共演したバージョンではない方を使っている。

4
808s&HEARTBREAK

2008年。これまでで最も大きな変化となった。先入観なしに聞けば、ヒップホップではなくソウルや男性ポップスのサウンドだ。曲の大部分はメロディーがついたボーカルで歌われる。オープニング曲も曲が始まってから10秒もたたずに歌が入ってくるが、この曲に限らずどの曲もバックの演奏はヒップホップとして流用可能だ。「ラヴ・ロックダウン」後半のパーカッション、「パラノイド」の80年代風キーボード、「ストリート・ライツ」の柔らかいストリングスが続くのは圧巻だ。

5
MY BEAUTIFUL DARK TWISTED FANTASY

2011年。70年代の白人的なロックを積極的にサンプリングし、歌詞を内省的にすることで音楽評論の好意的評価を得ている。音楽に含まれる抽象的な作用、つまりビートやサウンドといった感覚的な要素に相対する、意味や修辞といった解釈の要素については、いまだ白人が評価の主導権を持っている。意味や修辞の解釈には学問の積み重ね(その前提としての継続的に教育を受ける環境)が必要で、さらに、公に対して論評を発することができる地位は白人に大きく開かれている。従って、ヒップホップやソウルから引用するよりも、ロック、特に既に評価の定まった70年代ロックを引用する方が評価を得やすいうえに、詞が(個人や身の回りではなく)社会を志向しているとさらに好意的に受け入れられる。このアルバムはそうした要素が多く、自らを客観視できる知性を持っていることが奏功している。「パワー」はキング・クリムゾンの「21世紀の精神異常者」をサンプリング。「ヘル・オブ・ア・ライフ」はブラック・サバスの「アイアン・マン」のメロディーを引用。「ゴージャス」はデ・ラ・ソウルやU2も使用したタートルズの「ユー・ショウド・ミー」、「ソー・アパールド」はマンフレッド・マンズ・アース・バンドの「ユー・アー・アイ・アム」、「デヴィル・イン・ア・ニュー・ドレス」はスモーキー・ロビンソン(元はシュレルズ)の「ウィル・ユー・ラブ・ミー・トゥモロー」をサンプリング。

6
YEEZUS

2013年。エレクトロニクス、シンセサイザーを前面に出したサウンド。特に前半3曲はダフト・パンクがプロデューサーとなっており、通常のバンドサウンドや人間的なアナログ感のあるサウンドはほとんどない。「ブラック・スキンヘッド」はゲイリー・グリッターの「ロックンロール・パート2」とマリリン・マンソンの「ザ・ビューティフル・ピープル」を合わせたような曲。「ニュー・スレイヴス」はハンガリーのバンド、オメガをサンプリング。「ブラッド・オンザ・リーヴス」はニーナ・シモンの「不思議な果実」をサンプリングしている。後半の曲もエレクトロニクスとシンセサイザーを多用した空間の多いサウンドとなっている。「バウンド2」収録。