OUTKAST

  • アメリカのヒップホップ・デュオ。ニューヨークやロサンゼルスではなく、南部のアトランタ出身であることが重要。
  • 「スタンコニーヤ」は2000年代のヒップホップの方向を示唆するアルバムとして名盤とされる。
  • 「スピーカーボックス/ザ・ラヴ・ビロウ」はヒップホップで最も売れたアルバム。
  • 2007年に活動を停止している。

1
SOUTHERN-PLAYALISTICADILLACMUZIK

1994年。邦題「ストリートの掟」。アウトキャストはアメリカ南部のアトランタ出身の2人組。南部、またはアトランタ出身であることを自覚してデビューしたヒップホップ・アーティスト。アウトキャスト以前のアトランタの有名ヒップホップ・アーティストはクリス・クロスしかいない。この当時はギャングスタ・ラップが全盛だったので、オーソドックスな形式のヒップホップはあまり注目されなかった。「プレイヤーズ・ボール」「ギット・アップ、ギット・アウト」収録。全米20位、100万枚。

2
ATLIENS

1996年。邦題「反逆のアトランタ」。この年はアトランタでオリンピックが開催されている。オープニング曲の「ユー・メイ・ダイ(イントロ)」は哀感がある女性ボーカルで、終わりの部分はラヴィン・スプーンフルの「サマー・イン・ザ・シティ」を思わせる。アルバム全体が近未来を想像させる内容で、ジャケット、サウンド、裏ジャケットの曲表記などが一体となって作られている。サウンドは音の空間が多く、アルバムタイトル曲はスネアが効果的だ。「バビロン」はサビがメロディアスなソウル・コーラスで、サビの方が目立つ。全米2位。

3
AQUEMINI

1998年。「アクエミナイ」とは2人の星座、アクエリアスとジェミニを合わせた言葉。前作の路線で。アメリカ南部出身であること、もしくは生活の基盤がアメリカ南部にあることに対して意識的である。「ローザ・パークス」はアフリカ系アメリカ人には極めて有名な女性の名前で、公民権運動の発端となったバス事件の当事者。全米2位、200万枚。

4
STANKONIA

2000年。ヒップホップ史上の傑作とされるアルバム。アルバムジャケットの星条旗はスライ&ザ・ファミリー・ストーンの「暴動」を思わせ、70年代のファンク・ロックと挑発的な政治性を聞き手に準備させる。サウンドが多彩になり、ロックで言えばミクスチャー・ロックが登場したような感覚がある。90年ごろにフェイス・ノー・モア、レッド・ホット・チリ・ペッパーズが出てきたときの斬新さ、すなわち80年代風MTVロックやヘア・メタルのマンネリ感を破った攻撃性があり、ジャケットともども大きくイメージを変えた。「B.O.B.」はポップでメロディアス。「ミス・ジャクソン」収録。全米2位、400万枚。

 
BIG BOI AND DRE PRESENT...OUTKAST

2001年。ベスト盤。新曲3曲収録。全米18位。

 
SPEAKERBOXXX/THE LOVE BELOW

2003年。アウトキャストの2人がそれぞれソロ・アルバムを作り、その2枚を2枚組の1作品にした変則的なアルバム。「スピーカーボックス」がビッグ・ボーイ、「ザ・ラヴ・ビロウ」がアンドレ3000のソロとなる。「スピーカーボックス」はヒップホップのイメージに近く、近隣ジャンルであるハウスの雰囲気も持つが「ザ・ラヴ・ビロウ」はメロディーを持ったボーカルが頻繁に出てきて、ヒップホップ・ソウルに近い。これを単純にアウトキャストの2枚組アルバムとせず、1人ずつに分けた方がよいと判断したのは、聞けば理解できる。「スピーカーボックス」にリュダクリス、ジェイ・Zが参加。「ザ・ラヴ・ビロウ」にノラ・ジョーンズが参加している。全米1位、1100万枚。

5
IDLEWILD

2006年。1930年代のアメリカをテーマとしたアルバムなので、ジャズとブルースのサウンドが多用される。スタジオ録音としては「スタンコニーヤ」に次ぐアルバムだが、サウンドの雰囲気は大きく異なる。「スタンコニーヤ」でアウトキャストのヒップホップでの革新性を評価していた人には、やや期待を裏切る作品だろう。「スタンコニーヤ」が革新的であったのは、サウンドに取り入れた他ジャンルの音楽が現在進行形のポピュラー音楽に近かったからである。それが今回はジャズとブルースである。ジャズやブルースは、音楽としてすでに評価の定まった「クラシック」であって、それを取り入れてもある程度の質と評価が保たれることは明らかである。しかし、ヒップホップにその種の「質と評価」を求める人は、ヒップホップの反体制性を認めつつ、ヒップホップとは距離を置きたがる中産知識階級である。その多くは白人の「元」若者、すなわち60年代から80年代に青春時代を迎えた人である。そうした人を取り込むことがヒップホップの理解と市場を広げるのは確かであるし、効果においては最も確実かもしれない。しかし、それをわざわざアウトキャストがしなくても、他のヒップホップ・アーティストに任せばいいだろうという印象が出てくるのは否めない。全米2位、200万枚。