SONATA ARCTICA

ソナタ・アークティカはフィンランド出身のヘビーメタル・バンド。ボーカル、ギター、ベース、ドラム、キーボードの5人編成。ほとんどの曲をボーカルのトニー・カッコが作詞作曲している。デビュー当初はスピーディーなヘビーメタルだったが、近年は曲の幅が広がったヘビーメタルとなっている。

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ECLIPTICA

2000年。キーボードを含む5人編成。フィンランド出身。やっている本人はストラトヴァリウスから影響を受けたと言っているようだが、ストラトヴァリウスよりもクラシック寄りだ。ボーカルは本家を上回っている。ギターが速弾きに走らず、メロディーを明確に演奏する手法を取ったのは賢明だ。キーボードは音階を順次上がったり下がったりする奏法なので速く弾いても聞き手がメロディーの流れを自然に追える。ギターとのユニゾンも多いため、印象に残る曲が多くなる。「ブランク・ファイル」「アンオープンド」収録。

 
SUCCESSOR

2000年。デビュー盤から「フルムーン」をシングル・カット。スコーピオンズの「スティル・ラヴィング・ユー」、ハロウィンの「アイ・ウォント・アウト」をカバー。どちらも本家の良さを確認させてしまった。新曲2曲は疾走曲とバラード。ライブが4曲。スピーディーな「サン・セバスティアン」が最大のポイント。

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SILENCE

2001年。速さとクラシック風の旋律で押していた前作からは、多少曲に幅が出てきて、ミドル・テンポの曲でも相当の質を保つ。キーボードの音が柔らかめになり、サウンドに丸みがある。「ウルフ・アンド・レイヴン」収録。

 
ORIENTATION

2001年。シングル。「ブラック・シープ」、「メリー・ルー」のアコースティック・バージョン。ベット・ミドラーの「愛の翼」、アイアン・メイデンの「邪悪の予言者」を収録。アイアン・メイデンの曲はオリジナルと邦題が違う。「ウルフ・アンド・レイヴン」のビデオも収録。

 
SONGS OF SILENCE LIVE IN TOKYO

2002年。ライブ盤。イントロから始まり、ライブの大まかな流れをほぼ再現している。ライブの中盤はミドルテンポの曲が続き、後半は速い曲になる。ボーナスディスクには「ブランク・ファイル」と「ランド・オヴ・ザ・フリー」を収録。スタジオ録音の「ピースメイカー」はアルバム未収録曲。

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WINTERHEART’S GUILD

2003年。路線としてはデビュー以来ずっと変わらないが、旋律の頂点がサビに来ないことがあるため印象が薄くなる。曲が定型化されているのである程度の変化を持たせる必要がある。

 
TAKATALVI

2003年。「サン・セバスチャン」の初期バージョンに未発表曲3曲、カバー3曲を加えた企画盤。カバーはスコーピオンズの「スティル・ラビング・ユー」とハロウィンの「アイ・ウォント・アウト」とメタリカの「フェイド・トゥ・ブラック」。ジャケットのモチーフはグレイヴ・ディガーの「ザ・グレイヴ・ディガー」と同じ。肩に大ガラスがいる場合、その人物は北欧神話のオーディン。

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RECKONING NIGHT

2004年。メロディーの展開の仕方、リズムの転換の仕方などは前作と大きく違い、自然な技巧が含まれる。キーボードにオルガンの音が増えたとか、コーラスが厚くなったというのは聞けばすぐ分かる変化で、サウンドの路線もそれほど大きく変わらない。「サイレンス」以降のスタジオ盤では最も飛躍の大きいアルバム。「エイント・ユア・フェアリーテイル」「ワイルドファイア」「ホワイト・パール、ブラック・オーシャンズ」はすばらしい。

 
DON'T SAY A WORD

2004年。シングル盤。「ワールド・イン・マイ・アイズ」はデペッシュ・モード、「トゥー・マインズ、ワン・ソウル」はヴァニシング・ポイントのカバー。「ワールド・イン・マイ・アイズ」は原曲どおりのエレクトロニクス・ポップスのようなサウンド。

 
PAID IN FULL

2005年。シングル盤。「ペイド・イン・フル」はアルバムより約40秒短いラジオ・エディット・バージョンを収録している。「アウト・イン・ザ・フィールズ」はゲイリー・ムーアのカバー。

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UNIA

2007年。邦題「ウニア~夢記」。デビュー時はメロディアスでスピーディーな曲と昇降の多いフレーズで大きな人気を得たが、このバンドの聞きどころをそこにしか見出せなかった人、あるいはミドルテンポの曲に現れる個性が分からなかった人には、このアルバムのよさが理解できないと思われる。このアルバムにはスピーディーな曲がほとんどない。ソナタ・アークティカは確かに人気の高いバンドであって、その人気の多くはメロディアスでスピーディーな曲に集まっている。しかし、そうした曲が少なくても、それ以外の部分で人気を得る実力がある。デビュー時はその実力がスピーディーな曲によって隠されていた(見えにくくされていた)と言ってよい。逆にいえば、ミドルテンポの曲のすばらしさによって、メロディック・ヘビーメタル以外のファンが多くついてもおかしくないバンドであるが、日本のヘビーメタル・ファンは代表的な曲のみでバンドのすべてを知ったかのように振る舞う人が多く、ミドルテンポの曲が理解できないまま一刀両断に判断してしまう。彼らにとっては、「ヘビーメタル・バンドのソナタ・アークティカ」ではなく「メロディック・スピード・メタルのソナタ・アークティカ」なのである。ギターの音が太くなり、コーラスが凝ってきた。「イット・ウォント・フェイド」はいい曲。

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THE DAYS OF GRAYS

2009年。ギターが交代。アルバム全体にオーケストラのようなサウンドが被さっている。キーボードで代用している部分もある。デビュー当初のメロディアスでスピーディーなヘビーメタルというイメージは薄れ、キーボードを主体とするドラマチックなヘビーメタルに変わっている。1曲目は3分のイントロで、2曲目から実質的な曲が始まる。曲はボーカルのトニー・カッコがほぼ1人で作っており、ソナタ・アークティカの個性はボーカルとキーボードで形成されていると言える。「フラッグ・イン・ザ・グラウンド」はデビュー当初の路線。それ以外の曲は、速くないことを前提に聞いた方がよい。

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STONES GROW HER NAME

2012年。キーボードの割合がやや高いヘビーメタル。前作ほどオーケストラ風の音は使っていないが、ピアノやオルガンのような伝統的楽器の音がよく使われる。ヘビーメタル特有のギターの刻み方を使ってハードさを確保する。アルバムの後半はバイオリン、バンジョーを使う曲、「レコニング・ナイト」収録の「ワイルドファイア」の続編を入れ、曲に趣向を凝らしている。

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PARIAH'S CHILD

2014年。前作と同じように全曲をボーカルのトニー・カッコが作曲しており、サウンドの幅が広がっている。ミュージカルのサウンドトラックに近い曲調で、ボーカルの表現力も広い。トニー・カッコはヘビーメタルだけではなく一般的なポップスや映画、ミュージカルにも対応できる作曲能力を持っていることが分かる。デビューしたときのサウンドを維持するということにこだわらないところは、日常的に聞く音楽がヘビーメタルだけではなく、それ以外のジャンルが多いことを示唆する。「テイク・ワン・ブレス」「クラウド・ファクトリー」「エックス・マークス・ザ・スポット」はいい曲だ。ヘビーメタルを期待する聞き手は肩すかしを食らう。

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THE NINTH HOUR

2016年。「ウニア~夢記」以降のアルバムには毎回何らかのサウンド上の変化があったが、このアルバムは特に大きな変化はない。ヘビーメタルとしてはキーボードの位置づけがギターと同等かそれ以上で、ロイヤル・ハントほどではないが、欠けると曲は成り立たない。ヘビーメタル特有の80年代的音響と演奏を維持し、それが聞き手の固定化ともなっている。「フェアリーテイル」はアメリカのトランプを批判する曲。「キャンドル・ローンズ」は編曲とボーカルを変えればポップスとしてヒットする可能性がある。「ストーンズ・グロウ・ハー・ネーム」と同様に、ジャケット全体は頭蓋骨に見えるような構図になっている。

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TALVIYO

2019年。邦題「タルヴィユエ~冴ゆる宵闇」。オープニング曲の「メッセージ・フロム・ザ・サン」は30秒のイントロのあとアップテンポになるが、その後はハードロック、ミドルテンポの曲が多数になる。曲の幅は意図的に広くし、典型的なヘビーメタルをあえて少なくしているかのようだ。この次のアルバムでさらに幅を広げた場合にどんなアルバムになるのかを期待させる。インスト曲の「イスモズ・ゴット・グッド・リアクターズ」はアップテンポでメロディー。「ザ・レイヴン・スティル・フライズ・ウィズ・ユー」は「イスモズ・ゴット・グッド・リアクターズ」と同様に変わったメロディーを使う。